バニラの香り
子供の頃、台所にあった小さな茶色い薬瓶、その中の液体がこの世のものとは思えないほど、とろけるような甘い香りを発していたので、子供心に何とかその液体の味を確かめてみたいものだと、母親の目を盗んでちょっと舐めてみた。その瞬間、ビリッと舌の先に刺激を感じたかと思うと、凄い苦みが口の中に広がった。それと同時に鼻に抜けていく甘い香り。何だこれは! 香りと味のこの大きな落差!
みんなの中には、子供の頃のこんな思い出を持っている人も多いんじゃないかな。そう、この甘い香りの正体はバニラエッセンスだったんだね。
バニラという香料は、最近でこそバニラビーンズそのものが、菓子材料店などで売られるようになったことから、知ってる人は多いだろうけど、じゃあ、バニラという植物はどんなものか知っている人はまだまだ少ないみたいだね。
バニラの花
バニラは、中米に自生するラン科バニラ属に属する蔓性植物で、現地では数十メートルにも生長するんだぞ。蘭の仲間では最も名の売れている植物だろうね。カトレヤやシンビジュームを知らない人はいても、バニラを知らない人はいないだろうからね。最近では観葉植物として出回っていることもあるぞ。ただ、バニラが蘭の仲間だってことを知ってる人は少ないだろうけどね。
バニラの栽培風景
バニラは、現在はマダガスカル、インドネシア、メキシコなど世界各地の熱帯地域で栽培されているんだ。花のあとにできる莢状の果実を発酵させてできるのがバニラビーンズで、日本にはこのバニラビーンズの形で輸入されているんだよ。
バニラの未熟果
バニラビーンズを縦半分に割ってみると、中心部に黒い小さな粒々が密集しているよね。これが発酵したバニラの種子なんだけど、ケシ粒よりも小さくて発酵前ならフッと吹けば飛んでしまうほど小さいんだ。この発酵した種子に含まれるバニリンと言う化学物質が香りの正体。これを香料としてアイスクリームやカスタードクリーム、ケーキ等に使っているんだ。最近では人工的に合成されたバニリンを使うことも多いけど、クリームの中に黒い粒々が見えるものは、本当のバニラを使っている証拠だね
発酵済のバニラビーンズ