おはぎとぼたもち
「萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」
(はぎのはな おばな くずばな なでしこのはな おみなえし またふじばかま あさがおのはな)
今回も、山上憶良が詠んだ秋の七草の歌から始めたんだけど、この歌の突破しに出てくる萩の花は、もちろんみんなよく知っているよね。前回の葛の花に比べれば、この時期になるとあちこちの公園やお寺などで「萩祭り」なるものも催されるしね。
ハギの花
ハギはマメ科に属する落葉低木だけど、年々幹が大きく太くなることはなく、その年に根際から出た枝は木質化するんだけど、冬には地際近くまで枯れてしまうので、毎年地際から新しい枝を伸ばすことになるんだ。だから、萩を栽培するときは冬に枯れた枝を地際まで刈り込むことが必要なんだぞ。
ハギの花の拡大
さて、それじゃあ、今回もみんなの大好きな食べ物から攻めてみようかな。萩にまつわる食べ物と言えば・・・・・そう、誰しも思い浮かぶのは「おはぎ」だね。「おはぎ」は「御萩」という意味で、萩の花の咲く秋の彼岸に食べる小豆の餡で包んだお餅のことを言うんだ。人によっては、または地域によっては、つぶ餡かこし餡か、または中入れるお餅は完全に搗いた餅か、それとも粒々感を残した半搗きかなど、異論もあるだろうけど、秋の彼岸に食べるのは「おはぎ」なんだ。それじゃあ、春の彼岸に食べるのは? そうそのとおり! 「ぼたもち」だね。ぼたもちは、漢字で書くと「牡丹餅」で、牡丹の花の咲く頃に食べるので牡丹餅と呼ばれるようなったんだ。
「おはぎ」も「ぼたもち」も基本的には一緒なんだけど、昔は小豆の収穫後、マメの皮が柔らかいうちに作る「おはぎ」にはつぶ餡を、翌春になってマメの皮が固くなってきたときに作る「ぼたもち」には、皮を取り除いたこし餡を使うのが一般的だったようだけど、今はマメの保存技術が発達したので、いつでも美味しいつぶ餡を作れるんだ。
いずれにしても、餡餅に季節の花の名前を付けるなんて、昔の人のセンスもなかなか洒落てていいよね!
話のついでに、秋が「おはぎ」で春が「ぼたもち」なら、夏と冬は? 実は、夏と冬にも別の呼び名があるんだぞ。おはぎは基本的に半搗きの餅米を使うことから、餅搗きをせずに捏ねるだけだよね。だから、餅を搗いている音がしないので周りには作っていることが分からないんだよ。さて、夜に船着き場に着いた船は、周りが暗いので着いたことが分からないだろう。おはぎも搗いたことが分からないので、そのことをかけて夏のおはぎを「夜船(よふね)」と言うんだ。また、冬に家の北側の窓から空を見上げても、お月さんは見えないよね。このことから、北側の窓には月がないことと、おはぎの搗きがないのをかけて、冬のおはぎを「北窓(きたまど)」というんだぞ。どうだい、なかなか洒落てるだろう?
ハギの樹姿
もう一つついでに、萩という名前は、毎年、春になると株元から新芽が生えてくることから、「生芽(はえき)」が訛って「はぎ」となったという説が有力みたいなんだ。ちなみに、『万葉集』では「芽子」と表記して「はぎ」と読ませているんだってさ。