白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

葛はクズじゃない

「萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」
(はぎのはな おばな くずばな なでしこのはな おみなえし またふじばかま あさがおのはな)

この歌は山上憶良が秋の七草を詠んだ歌で、万葉集に収められているんだけど、みんなはこの歌の3番目に詠まれている葛の花を見たことがあるかい? と言う前に、葛(クズ)っていう植物を知っているんだろうね? なんだか怪しいなぁ。じゃあ、まずクズって言う植物の説明からはじめるとするか!
葛はクズじゃない①クズの花 クズの花

クズは、マメ科に属する多年生の草本で、地下に大きな塊根を作り、毎年そこから非常に長い蔓を伸ばして周りの植物を覆い尽くしてしまうほどなんだ。
葛はクズじゃない③周りを覆いつ尽くすようにはびこるクズの蔓 周りを覆いつくすようにはびこるクズの蔓

ところで、食べ物には目がないみんななら、葛湯、葛餅、葛切りは当然知ってるよね。クズの大きな根からは大変質の良いデンプンが穫れて、それを葛粉と言うんだけど、特に、奈良県の吉野町で穫れた最良のものは「吉野葛」と言って最高級品だよね。この葛粉を水で溶いて砂糖を加えて、ゆっくりと加熱しながら透明になるまで練ったものが葛湯。溶かした葛粉を冷やして固めたものが葛餅。そして麺状に切ったものが葛切りだぞ。
さらに、葛根湯(かっこんとう)は風邪の引きかけに、解熱などのために呑む漢方薬としてよく知られているよね。もちろんこれは葛の根から作られた生薬だぞ。さらにもう一つ、葛の花は二日酔いの予防や治療にも使われているんだぞ。また、強くて長い蔓は葛籠(つづら)を編む材料となり、葉は家畜の飼料にもなるんだぞ。

どうだい、葛って言う植物は、クズどころか、ものすごく人間の役に立つ植物だってことが分かっただろう。ところが、あまりにも生長が早く、そこら中ではびこってしまうことから、今では厄介者のレッテルが貼られているのは、植物好きの我が輩としては悲しいかぎりだね。

さて、ここらで話題を変えて、みんなは「葛の葉伝説」って言うのを聞いたことがないかなぁ?
今から千年ほども前の話なんだけど、今の大阪は阿倍野の里に住んでいた安部保名(あべのやすな)は、父の代に没落した家の再興を願って、信太森葛葉稲荷(しのだのもりくずはいなり)に日々お参りをしていたそうな。そんなある日、神社の境内で狩人に追われていた白狐を助けたんだけど、本人が大けがをして倒れ込んでしまったんだ。命を助けられた白狐は、「葛の葉」という美しい女性に化けて、保名を家まで送り届け、その後も何度も見舞ったそうな。やがて二人の心が通じ合い夫婦となり童子丸という男子をもうけたんだ。しかし、その子が5歳の時、ひょんなことから葛の葉の正体が狐であることがばれて、狐は泣く泣くその子をおいて森へ帰ったんだ。その際に葛の葉が障子に書き残した歌が、

「恋しくば、尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」
(こいしくば たずねきてみよ いずみなる しのだのもりの うらみくずのは)

で、そのときに残された子(童子丸)が、後に陰陽師(おんみょうじ)として名を挙げる安倍晴明だと伝わってるんだぞ。

この伝説から、狐が化けるときには、葛の葉を頭の上に乗せるんだってさ。ちなみに、きつねうどんをしのだって呼ぶのも、この伝説かららしいぞ。
安倍晴明をお祭りしている安倍晴明神社は、大阪と京都にあるから、一度お参りしてみてはどうかな。ただ、その際には、ちゃんと葛って言う植物を確認してからお参りするんだぞ!
葛はクズじゃない②開花中のクズ 開花中のクズ

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