白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

西宮阪急「食のミニセミナー」

セミナーレポート 2019.5.24  京・南禅寺畔 瓢亭 当主 高橋英一先生

2019/5/29 

 

毎年この日を楽しみにされているお客様でいっぱいの会場には柔らかな緊張感が漂っています。ゲストは瓢亭14代当主 高橋英一先生。5月にふさわしく「豆ごはん」と、瓢亭のお土産にもなっている「じゃこえのき」をご用意くださいました。

「さやえんどうは豆を取り出した後、さやをきれいに洗って、鍋にお湯を沸かし、少し塩を入れてさやを湯がき、豆汁を作ります。お米を洗って水を吸わせた後、冷ました豆汁で炊きます」。いつもは厚手のアルミ製文化鍋で炊かれるそう。「鍋のふちが広くなっているので、吹きこぼれません。別の鍋を使ってIHで炊くのは初めてですが、今日はよくできる弟子がいるので、大丈夫」。瓢亭で15年修行された苦楽園口「京料理くまがい」の熊谷伸司さんが今回もお手伝いに。「豆は沸騰して少ししたら鍋に入れます。混ぜずに広げるように。青くさい豆汁でお米を炊きます。『きょうの料理』に出たときは食べ物に「~くさい」という表現は控えて欲しいとなったのですが、青くさいというのは豆の香りがしておいしいという、いい意味ですから」。味わう客席のつぶやきから感動が伝わってきます。

「じゃこえのきは私のこだわりで別々に炊いて合わせます。えのきは年中ありますし、歯ごたえも香りもいい。根もとを切り落とし3等分に切り、根に近い部分は手でほぐします。鍋に調味料を入れ、沸騰したらえのきを入れます。少しの調味料でえのきがぺっしゃんこになるまでずっと混ぜながら炊きます。えのきの色が変わって地がほとんどなくなってきたら、ザルに上げます。汁気を切っておくと日持ちもよくなります」。「地というのは煮汁のことですね。料理人さんはよくそう言われますね。わぁ、小さなちりめんじゃこ」「じゃこも同じように、調味料を合わせて煮立ってから鍋に入れ、馴染んできたら実山椒の佃煮を入れます。地が少なくなってきたらえのきと合わせて仕上げます」「お土産用のものも瓢亭さんの中で作られているのですか」「はい。片手間で作りますので大量には作れませんが」和やかな会話とともにいい香りが。

京土産として定番のちりめん山椒。もとは瀬戸内のじゃこと鞍馬の山椒を使って家庭で作られてきたおふくろの味。「新鮮な海のものが入りにくい土地なので、敦賀から近江今津を経て京都に入ってくる固いニシンや棒鱈なども、柔らかく戻して家でおいしいおかずにしてきました。にしんそばやちりめん山椒のようによそから仕入れたものを京都の名物にしてしまうんです」と髙橋先生。「鯖街道から入ってくるのはやサバやグジ。有名な老舗の鯖寿司は半身で4300円。鯖がたくさん取れる地域の人からすると高く感じますが、食べるとさすがの味わい。京都人のハレの日の特別な食べ物として思い入れがありますね」と京都の食文化のお話を。

もう一品お持ちくださったのは瓢亭名物「鶉(うづら)せんべい」。「小学生の頃、店で鶉を飼っていて私が世話をしていました。肉は料理に使うのですが、ミンチにした肉を赤味噌と白味噌で炊いた『うづら味噌』が名物で、味噌を入れる鶉の形をした陶器の蓋物の器もありました。戦後、何かお土産もんをということで、瓢箪型のおかきにうづら味噌と醤油をからめたのがこれです」。
「拝見していると、ひとつひとつ本当に丁寧な作業をなさっておられるなぁと」「やっぱりひと手間をかけるとおいしいものができます。ひと手間が大事です」。高橋先生のお人柄や所作に瓢亭のたたずまいを感じながら、一口を大切に味わう豊かなひととき。お茶事の話題も出て学び多いセミナーとなりました。(文:土田)

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