白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操発スタジオ*トピックス

「変わって変わらないもの」

2021/2/18 

誰かの不安な気持ちを感じ取って「自分にできる何かをしてあげたい」「これで少しは元気がでるかもしれない!」と思った時、お互いの信頼関係があれば、まず会ってご飯を食べるのが一番。それは分かっているけど、このコロナ禍「集まらないで!」「マスクははずさないで!」「会食・飲食を控えましょう!」とままならない日々。もうガマンして何カ月も経ちました。

この一年の間に、二人、身近な人の大切な家族が突然倒れて、意識が戻るのを祈りながら待つことに。遠い未来に希望を持ちながら、辛い日が続いています。
思うように会えない中、一緒に動物や花畑も楽しめる農家レストランで静かにゆったり食事をしたり、落語を聞きに落語会へ。前後左右一席あけて対策万全の会場で、友達と同じ笑いを共有している喜びを分かち合ったという余韻がいつまでも心に残りました。帰りに予約していたレストランはキャンセルして、シェフの都合のよい日にそれぞれの自宅に料理を送ってもらい、同じ料理をそれぞれの家で楽しむことに。それもまた素敵な思い出になりました。

 

30年以上同じメンバーで続く料理教室は「今月も料理教室を休むか・・・・いやいや何か私にできる工夫はないかしら」と、色々悩んで考えました。密を避けて、庭と窓をあけたキッチンルームを使おう(なんと当日は冬を忘れるピカピカの暖かいお天気に恵まれました)。料理はできるだけ作業が混まないように。私が家で準備できることは一人で作っていく!
テーマは「私が長くおつき合いしている、こだわりのモノを作っておられる方を紹介しつつ、食べてもらう会」にしました。鹿児島・種子島から安納芋を世に出した蓑茂さんのご夫妻の物語と安納芋の焼きいもを。境港・板倉さんの生干物は備長炭の七輪で焼き、春のネバネバ海藻アカモク(ギバサ・ナガラモ)は丼に。備長炭は和歌山で「あの日の梅干し」を手掛ける佐々木さんにいただいた貴重品です。尼崎・杭瀬の宮島さんの有機のお豆腐を各種食べ比べ。デザートは淡路のみかん名人原田さんのはるみと桂新堂のチョコえびせん。もちろん調理中はマスク、食べるときも十分に距離をとって。
人柄にふれたからこそ話せる色んなエピソードを伝えながら、マスクごしのたくさんの笑顔にふれ、人とつながることの幸せを感じていました。

庭で備長炭の火おこしを担当したメンバーは相当苦戦した模様・・・。焚き付けに使えるかなと春待つ庭に不釣り合いなすすきや枯草を刈ってくれました。花がほころび始めた梅の木も足元すっきり。
時間をかけて育んだつながりは新しい試みを楽しみながらこれからもずっと続きそうです。

白井 操

 

 

写真はスタジオの庭の梅。6月には梅の実がたわわに実ります。

 

ひびき合う色、人、思い

2020/12/30 

コロナの時を過ごす中で、今まで使ったことがなかった言葉も、見聞きする内に違和感なく心に届くようになりました。
たとえば「クラウドファンディング」は、誰かの考えたことを実現するために「よし!応援しよう」と思った人がお金を出し合って、資金を調達すること。ちゃんと書けないけど読める漢字みたいな理解ですが・・・。
「オンライン」、私はまだ乗り切れていませんが、なんとなく分かります。一番よく耳にしたのは「オンライン飲み会」。お店だと、前菜のプロローグから今日一番の気合が入っているメイン料理の後、すっとご飯ものやデザートが出て静かに終わりに近づく。料理から気配を感じて、会話も静かに盛り上がり、ボチボチおわりだな・・・という具合に、大体時間も読めます。家でもてなしても同じこと。「頃合い」をお互い理解し合う感じをオンラインの場合はどうするんだろう。「はい、終わり!」って難しくないのかしら。仲良しの場合はいいのかな。なんてひとり考えたりして・・・。
この間テレビで紹介されていたのは、「捨てられたゴミを集めて自分達の住む町をきれいにしよう」とネットで呼びかけた声に、知らない人同士がつながって活動される素敵な取り組み。なんとなく同じことを願う人たちが一人の人の呼びかけで集まり、老いも若きも知らないもの同士が月2回、町をお掃除するのだそう。「定年を過ぎて家でゴロゴロしていましたがネットの呼びかけに勇気を出して来てみたら、出会ったこともない人たちと会えて一緒に作業して親しくなりました。」という方も。「オンライン」もなかなかです。
野菜に例えると、同じ仲間どうし、色は少し違うけど、互いが側にいることで支え合って、メインの一皿をよりきれいにおいしく仕上げる2色の人参のような関係でしょうか。何の話かなって?高校3年生の冬はじめて作った鶏の煮込み料理の付け合わせに作った人参のスープ煮のことです。お正月の頃に出てくる赤い金時人参と年中あるオレンジ色の人参の2色を組み合わせるだけでなんとも暖かい鮮やかな色彩に。人参の素敵な色の取り合わせのように、気持ちを同じくする仲間が集まると、思いが響きあって素敵な世界になる。そんなことをふと思い出しました。冬のごちそうの横にぜひ。

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◆2色人参のスープ煮
(材料2人分)
西洋人参・金時人参 各50g
(A)
・固形スープの素 1/2個
・ローリエ 1枚
・香味野菜(玉葱、セロリの葉、パセリの茎など) 適量
・タイム、オレガノ、マジョラムなど好みのハーブ(乾燥) 適量
・白ワイン 大さじ1

(作り方)
1、人参は1cm厚さの輪切りにし、皮をむく。
2、鍋に①、水2カップとAを入れて強火にかけ、煮立ったら弱火にして煮る。人参に竹串がスッ
と通る位柔らかくなったら火を止め、そのまま冷まして味をなじませる。

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変化と暮らしと食卓と

2020/9/3 

ウィズ コロナの世の中、あちこちで小さな変化が起きています。
今まで料理に興味のなかった人や忙しくてパパっとお惣菜を買っておられた人が、在宅勤務に変わり「おうちご飯」を作ることが増えています。だし昆布と削り鰹を買い、出汁をとって煮物をじっくり弱火でコトコト・・・。パソコン仕事の1時間の間にちょっと良い感じの煮物ができます。時間を上手に作っている人も多いのでしょう。
百貨店の食品部の方のお話では、今まで売れなかったものが急に売れ始めたというのです。ジッパー付きの袋に入ったぬか床に野菜を漬けるだけのぬか漬の素、ケーキやクッキー、ピザ、パン、お好み焼き、自分で作るギョーザの皮・・・など、小麦粉やケーキミックス。パスタもよく売れているとか。手作りを楽しむ暮らしが見えてきます。コロナの感染者数が増え始めるとお米が一気に売れるとも。
新聞には家庭用チーズの売り上げが3か月連続で2ケタ増の見出しがありました。
ペルシャ絨毯を扱うお店のオーナーの方のお話では、ここ数年、本当に大変だったのが、お客様が戻ってこられ、テレビにも取り上げられたそうです。家の時間を大切にしようと思われる方が増えているのかも知れません。
きっかけはともあれ、これは「我が家の味」復活の兆しかも。その代名詞ともいえるのがぬか漬です。市販のぬか漬の素は、体にやさしいものを選ぶと添加物が少ない分、塩が多く入っています。ぬか床が塩辛い時はぬかを足して、私はビールや日本酒、だし昆布、時には麹を入れたりします。おいしくなりますよ。冷蔵庫にいれっぱなしにしないで、暑い日は1日1~2回、せめて2日に1回混ぜましょう。塩辛いと感じるぬか床なら野菜に塩をつけずに漬けます。時間をかけて少しずつ自分好みにぬか床を育てましょう。きゅうりになす、かぶ、大根もいいですよ。ぬか漬には乳酸菌がたっぷり。腸が元気なら免疫力もアップします。まずはチャレンジ、体の中にもささやかな変化が訪れるはず・・・。