白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操発スタジオ*トピックス

日本酒とお漬物

2016/12/23 

和食のすてきなメッセージが世界に広がっています。
パリでお寿司を食べると、まぁなんとどんな解釈の違いでこんなにもびっくりする味わいになるのかと思うものもたくさんあって驚かされます。そんな時に思い出すのは「スパゲティーナポリタン」。私がうんと若い頃は、まだパスタなんておしゃれな言葉はなくて、決まってピンク色のハムとピーマン、ケチャップの炒めたものが、ゆがき過ぎたスパゲティーにからまって、フカフカ湯気を立てながら出てくる「スパゲティーナポリタン」こそがパスタの代名詞。フォークにからまなくて、どうにか口の近くに持っていって、あとは大きな音を立ててズルズルと音をたてて食べている人たちであふれていました。でもおじさんもおばさんも皆とてもおいしそうに食べる様子が心に残っています。
あの頃、日本に来られたイタリア人はどう思ってたのかしら。また日本人の団体客がイタリアのレストランで不器用に、でもおいしそうに音を立てて食べる様子をどんな思いで見守ってくれてたのかしら。
あれから約50年。今やパスタの専門店は町のあちこちにあり、生まれた時からパスタを食べている若い人たちは、器用にフォークだけで食べる人も少なくありません。イタリアの人が私たちを怒らずに待っていてくれたおかげで、日本にいながらにして本場と変わらないイタリア料理を日常的に食べられるようになりました。

和食もそんな風に世界に広がりつつあります。日本の蔵元が守り伝えてきた日本酒は海外でも大人気。和食のすてきを伝えるさきがけとして一役買っています。日本でチーズに当たるのはお漬物でしょうか。海外ではワインによく合うおいしいチーズが安くて種類も豊富です。おいしそうな野菜が美しく並ぶお漬物売り場、さてさてあの中にどれぐらい腸内細菌がよろこぶ昔ながらのお漬物があるのかしら・・・。「日本に行ったら乳酸菌たっぷりのおいしいお漬物が色々あって、これが日本酒とよく合ってね。地方によって違うんだけど、あれはボクたちの国にはないよね・・・あったらいいのに・・・」なーんて海外の人がうらやむ時代はもう来ないのかしら。ウーンそんなことを考えながら、今年も無事に新年を迎えます。
感謝を込めて。

白井 操

旬の栗のおいしさを食卓で

2016/10/27 

兵庫県は食の宝庫です。そこに住める幸せをしみじみ感謝します。
百貨店のお中元お歳暮のカタログで全国のおいしいものを紹介するコーナーを担当して9年。あちこち取材に行きますが、地元兵庫にも全国ブランドになっているものがたくさんあります。まだまだ知られていないものも数知れず。干物の加工技術がすぐれているため、よそで獲れた魚も兵庫県で加工されること、逆にからすみは技術やブランド力は長崎が優れているものの原料となるボラの卵巣は兵庫県産ということなどをご存じの方は少ないはず。兵庫県はおいしいものを縁の下での支える力持ちでもあるんです。

この秋、丹波栗のことを教えてもらってびっくりしました。歴史は古く平安時代初期に制定された「延喜式」の朝廷に栗を献上する国として、なんと「丹波」の名前があがっているんですって。9月~11月に出回る生の栗は、ほとんどがお菓子やおこわに。家庭の食卓では「料理がめんどう・・・」と言われてしまいます。ビタミンCや今評判のビタミンB群のひとつ葉酸もたっぷりあるのに残念ですね。
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このたび兵庫県農林水産技術総合センターが甘さを高める保存技術を開発され、低温処理施設のおかげで、大粒でクリーミーな丹波栗の甘味が3倍になりました。
で、私のおすすめの栗のみそあえを紹介します。栗はただ丸ままゆがくだけ。20分強ゆっくりゆがき、半分に切りスプーンでかき出した栗に、ほんの少しのだしと好みのみそ、砂糖を加えるだけ。火にはかけません。栗みそはご飯に載せてもほうれん草や春菊と和えてもやさしい味わい。つぶつぶが残っていても気にしないで・・・。口の中で栗を感じてなお美味しいです。スプーンでかき出した栗を蜜に漬けたり、コンデンスミルクを混ぜて市販のシュークリームにはさんだり。ぜひやってみてください。これから栗をみたら買いたくなりますよ。
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昔も、今も・・・

2016/7/1 

昭和14年初版の主婦の友社から出ている「花嫁講座」の料理シリーズは私の宝物です。母や叔母が使っていたらしく時々書き込みもあって、そのまま作ったことは一度もないけれど側にあるだけで何かを教えてくれている気がします。
材料、その後に作り方と書かれたものもありますが、何より頻繁に出てくる「拵える(こしらえる)」という表現が何ともいえずいいのです。

「一度に澤山拵えて(たくさんこしらえて)缶にでも入れて密閉しておけば、急のお客様などの時、ちょっと芥子(からし)和えなどが出来て便利です。」
これは日本芥子を香気よく溶く方法を説明した文章の結びの一文。粉芥子は初めに番茶で固く練り上げ、それを布巾に包んで10分位蒸します。こうするとよい香りが立って溶き芥子の素のようなものができます。それを保存して入用の時に酒か湯で伸ばしていつでも使えるようにするのです。チューブ入りの芥子が販売されるのはまだまだ先のこと。香辛料も手作りする時代、急なお客様でも手作りのもてなしを…。作り方の中に書き手のメッセージがたっぷり入っています。

お鍋の使い方を書いているページには、その時代に使われていた台所の様子もよく分かります。
「アルミニウムの永保(ながもち)法に、アルミニウムの鍋類は軽くて取り扱いに重宝ですが、それだけに損やすい(いたみやすい)ですから、酢の気のあるものや空炒りは絶対にしない方がよいのです。そして料理したものはすぐに他の器に移すことと、洗うにも磨砂(みがきずな)をつけてぎゅうぎゅう擦ったりせずに柔らかい布巾か絲瓜(へちま)に粉石鹸をつけて軽く洗い水気をよく拭きとっておくのが永保(ながもち)の秘訣です。時々コルクに油をつけて内外を磨くとよく光澤が出ます…」。

今の時代活字が多いと料理本は売れないと言われます。語りつくせない料理の多くの作業には、技術の奥に優しさや思いやりのひと枝があるんですよね…。皆さん!
昭和14年の古い本