白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

西宮阪急「食のミニセミナー」

セミナーレポート 2019.3.8 白井操の料理講習会

2019/3/14 

お客様アンケートでたくさんのリクエストが寄せられるのは、もてなし料理やパーティーレシピ、マンネリ料理を工夫したい、お魚をもっと食べたいといった声。今回はその声に耳を傾け、春を楽しむ料理講習会。会場には売り場から届いた春野菜がずらり。

「苦みは春の味わい。菜の花はゆがいて昆布とかつおのだしにしょうゆを加え、だし浸しにしておくと便利。朝出かける時に作って帰る頃には食べごろに。春野菜のエグみや苦みは油やだしに溶け出します。だから天ぷらにするのね。スナップエンドウは枝に付いている方から両側の筋を取ってさっとゆがいて。花つき側の尖った形を生かして盛り付けを。サラダはもちろん、さっと湯がいた新玉ねぎとかつお醤油ダレでシンプル味わっても。春キャベツは塊のまま大きなザク切りにして串を刺し、さっと湯がいて水気を切り、食べよく切ると断面のグラデーションがなんとも春の色合い。アンチョビを刻んでマヨネーズとしょうゆ、おろしににんにくとオリーブオイルで作ったソースでどうぞ。じゃがいもと温かいサラダもいいですね。焼いた魚やお肉の添えにも使えます。ポットラックパーティーなら別々に持っていって会場で盛り付けて。ふきは皮をむいてゆがいたらだし浸しに。薄く味がついたものをサラダや卵焼き、刺身に少し添えていつものおかずに春の気配を。カラフルな春野菜とお刺身を大皿に盛り付けて、しょうゆやオリーブオイル、柚子胡椒などいろいろ添えて、自由に味わい楽しむスタイルにすると、おもてなしにもぴったりです」。

鮮魚売場マネージャー白木さんも応援に。「関西で春が旬といえば鰆(サワラ)ですが、関東では冬が旬。海を回遊する魚の旬は土地によっても変わります。年中ある魚は日本のどこかで旬を迎えているということです。今日売り場に出ている天然ブリは旬の最後。今の内にぜひ食べておいてください」。「ブリを買ったらぜひ冷蔵庫の貯金に」と白井。「魚の切り身は帰ったらすぐに塩とお酒をくぐらせてだし昆布を添えてジッパー袋に入れておくと2~3日保存が効いて旨みもグンとアップしますよ」と魚の旨み漬けを紹介。試食には旨み漬けにした鰆のムニエルにゆがいた春キャベツ・菜の花・スナップエンドウから2種を添えて。「お隣同士で違った春野菜の組み合わせに。付け合わせとしていろんな楽しさがあることを提案したくて」。

「甘鯛やあいなめなど少し高めの食材は焼いて炊いたご飯に混ぜ込むと少しの量でも大勢が楽しめます。骨は除いておきましょう。炊き込みご飯は保温ができないから、混ぜご飯が便利。ダシご飯にしてもいいですね。パーティーにはラップを広げて、鶏のから揚げや焼き魚を切って載せ、ごはんといっしょにラップごと一口サイズのおにぎりに。具はデパ地下の惣菜で楽しんでも。カラフルなリボンをかけてかわいく仕上げて」。

白井のおすすめコーナーからの紹介は生の麹。「生のものは手に入りにくいのでうれしいですね。甘酒はもちろん、干した大根をべったら漬けにしても。私は手で固まりをほぐした麹カップ1に対して約800~1000mlのぬるま湯を入れやさしく混ぜて常温になったら冷たい場所へ。野菜室に10時間ぐらいおいて、少しずつ飲んでいます。薄甘くて少しずつ柔らかい酸味がでてきてすごくおいしい。底に残った麹はヨーグルトに入れて食べたり、ぬか床に混ぜたり、お肉と混ぜておくと柔らかくなります。加えるぬるま湯は酵素がダメにならないように60℃以下を守ってくださいね」。
ウインドー越しにうららかな春のきざしを感じながら、笑顔いっぱいのひとときでした。
(文:土田)

セミナーレポート 2019.2.22 株式会社小田垣商店 常務取締役 小田垣 昇さん

2019/3/4 

「丹波黒といえば」とその名を知られる株式会社小田垣商店の常務取締役 小田垣昇さんをゲストにお招きしました。「享保19年、1734年に鋳物商として創業し、明治初年に種屋に転業しました。当時あまり知られてなかった黒豆にいち早く目を向け、こんなに大粒で美味しい黒豆を多くの方に広めたいと『穫れた分は全量買います』と黒豆の種子を売り、作り方を教え、黒豆を手選りし販売したのが始まりです」。黒豆の最高級品種『丹波黒』扱う老舗として料亭などから信頼を集めます。
「お正月に黒豆を自分で炊いている人は?」白井の問いかけに会場は予想以上の手が上がりました。「わぁ、うれしい」。試食は「黒豆のすはま」を。「黒豆の甘煮をつぶして、きな粉と煮汁を加えて丸めただけ。まぶしたのはきな粉とグラニュー糖。他は何にも入ってないのよ。黒豆のおいしさがふわぁと・・・ね?」。きな粉も黒豆のものを使って。

「すべて機械化できる黄大豆と比べて、丹波黒豆は同じ面積なら手間は7倍、収穫量は半分と言われます。黒豆は機械だと皮が薄くてキズがつくので、木の根本から手作業で刈り取ります。脱粒機にかけるのも1本ずつ。ゆっくり自然乾燥させて、職人が手で選別します。畑で完熟を待って収穫すると12月の新物に間に合いません。年末に新物として出すためには黒豆が完熟する前に収穫しなくてはなりません。一方、前年産の貯蔵品は完熟させて低温貯蔵し次の年末を待ったものが出回ります。それが一番おいしい黒豆です。」「へぇ。おいしいのも、お値段も納得しました」。去年は7月の豪雨で畑が全部水に浸かってダメになってしまい、すぐ蒔きなおした後も3つの台風の直撃と9月の長雨で、例年の3割程度の収穫がやっとだったそう。「異常気象の中『丹波黒』を守っていくのは大変なこと。私たちも次の世代に地元の在来種の良さを伝えたいという気持ちになりますね」。

「食」をテーマにしたイタリア・ミラノの万博にも兵庫県を代表して出品された『丹波黒』。「『見た目と食感はオリーブ、味わいはマロンのようでおいしい』と現地の評判は上々でした。香港や台湾でも『こんなに大きくておいしい黒豆があるのか』と驚かれました。暑すぎて外で運動できないドバイでは食を通じた健康維持が推進され、黒豆に注目が集まっています。海外ではエダマメが人気。黒豆の枝豆も冷凍して持参しPRしています」。
黒豆の枝豆が出回るのは10月の2週間だけ。「さやに染みがついて見た目が悪いのは黒豆の特徴。おいしくなってきた証拠です。枝付きで出荷するのは鮮度を守るため。かさばりますが枝付きだと1~2日は豆が生きているんです。」「へぇ~!」。

白井から黒豆を使ったレシピも色々とご紹介。「節分豆のように煎った黒豆はそのまま料理に使えて便利。そのまま煮物やご飯と一緒に炊いても柔らかくおいしくなります。黒豆は水煮にして冷凍ストックに。昔からあるもの、体にやさしいものを心がけて食べていきたいですね」。
「ご家庭では野菜室での保管をおすすめします」と小田垣さん。「黒豆は他の乾燥豆に比べて水分が2~3%水分が多くカビが来やすいんです。ハサミで切ってみて内側にカビが回っていなければ乾布巾でカビをふき取り、加熱調理を。数年経った乾燥黒豆も見た目に問題がなければ、時間をかけて炊くと柔らかくなります。」と会場の質問に答えて。「大豆ファーストと言って、食事の最初に食べると野菜と同じように血糖値が上がりにくい効果があるそうです。良質なたんぱく質だけなく、黒豆には皮の色素にアントシアニンもたっぷり。お正月だけでなく1年を通じて召し上がって欲しい。」と最後に。お客様からも「黒豆が身近になりました」と嬉しいメッセージがたくさん寄せられました。
 (文:土田)

セミナーレポート 2019.2.8 香住鶴株式会社 九代目当主 代表取締役 福本芳夫さん

2019/2/15 

モニターに流れる、杜氏と蔵人の手による「香住鶴」の酒造りの工程が分かりやすく紹介される美しい映像に、セミナーの開始を待つお客様が引き込まれます。「2月6日発売の雑誌『dancyu(ダンチュウ)』の毎年恒例の日本酒特集で、兵庫県のお酒として唯一掲載されました」と白井が紹介したのは、但馬を代表する地酒「香住鶴」の九代目当主で代表取締役の福本芳夫さん。創業は享保10年(1725年)吉宗公の時代。

「八代目の父から『酒は香りではなく味だ』とずっと聞かされていました。それを実現するのが生酛・山廃造りです。」「生酛って何ですか?」「『酛』というのは蒸米と麹と水を混ぜ合わせた清酒酵母の培養体です。まず『酛』に含まれる野生酵母などの雑菌を殺菌するのですが、ほとんどの蔵元は醸造用乳酸を使って2週間程で早く確実に殺菌できる『速醸造り』を採用しています。それに対して『生酛造り』は自然の力だけでじっくり1か月かけて行うやり方。まず土や野菜の中に自然に存在する硝酸還元菌の力で働きを抑えられた野生酵母が乳酸菌が生成する乳酸によって殺菌され、その後酵母が糖を食べて出すアルコールがその乳酸菌を殺菌します。数多くの工程を見守り促す職人の技が必要です」「山廃っていうのは?」「生酛造りの中の蒸米をすりつぶす工程を、蒸米の山を櫂で崩しながら行うことから『山卸し』と呼びます。後に蔵人の大きな負担になっていた『山卸し』に代わる新しい工程が考案され、廃止したということで『山廃』というんです」「へぇ~」。「生酛や山廃で作った酒は酸やアミノ酸が2~3割多くてしっかりした味わいの酒に仕上がります。十代目となる息子に『どうせやるなら全量生酛・山廃で行こう』と背中を押され、今ではそれが強みになっていると思います」。年間800~1000万人のお客様が但馬を訪れ、おいしい日本酒を求めて蔵にも多くのお客様が足を運ばれます。会場では「生酛 純米 香住鶴」を味わいました。

9月2日の新米入荷と同時に仕込みを始め、84本のタンクすべての仕込みが終わるのは翌年3月29日。大吟醸では完成まで65日もの日数を要します。五感と経験を駆使して蔵の微生物をコントロールし、自ら設計した酒を醸すのが杜氏の役割。「今の杜氏が初めて杜氏を任された年は最初の1か月で7㎏も体重が落ちました。蔵人を束ねるだけでなく、もし失敗したら蔵の経営が傾くこともある責任の重さを分かっているからでしょう」。
夜はやかんのお湯に徳利をしずめ燗酒を楽しむのが常なのだそう。「きちんとした料理屋なら『ぬる燗』『上燗』『熱燗』をちゃんと分かって出してくれます。うちの酒は味がしっかりしていて燗にもよく合う。アルコールも少し抜けて、吸収も良いので、酔いも早いが、すぐ分解されて体にもやさしい。寒いNYでは今燗酒が流行しているそうですよ」「電子レンジも便利だけど、湯煎の燗酒もぜひ楽しんでほしいなぁ」「料理に使う酒も料理酒ではなくて清酒を。味の違いを知って欲しいですね」「わぁ、同感です」。

最後に「福本家 商売心得 八カ条」をご紹介くださいました。先代の教えを基に次の世代に伝えるべき信条を自ら考えられたもの。「第一条 品質は会社を守る」から「第八条 地域の為に尽くせ、『積善の家に必ず余慶あり』」まで、心に響く言葉にうなずくお客様がたくさん。お土産として「コウノトリ育む酒米」を使用した「生酛 吟醸純米 香住鶴」を1本ずつお持ちくださったことを聞いてお客様もびっくり。アンケートにも「勉強になりました」とうれしいメッセージが寄せられました。
試食は香住鶴の酒粕にグラニュー糖をサンドして焼いたおやつと、アンリシャルパンティエの「ショコラプール」、備長炭炭火京おかき「高瀬舟」を。 (文:土田)