白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

第36話 麗しき春の妖精

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みんなは「スプリング・エフェメラル」っていう言葉を聞いたことがあるかなぁ?
えっ、聞いたことがないって? じゃあ、この際にしっかりと覚えておくんだぞ!「スプリング・エフェメラル」とは、もちろん英語でSpring ephemeral、直訳すると「春の短命なもの」とでもなろうか。でも、これではあまりにも味気ないので、われわれ植物の世界では「春の妖精」と呼ぶことが多いんだ。どう、いい響きだろう?
さて、この「春の妖精」とはどんな植物のことを指すんだろう? みんなが一番よく知っている植物でいうならカタクリがこれに当たるんだ。カタクリは春先に花を咲かせる植物だね。このカタクリのように、ようやく木々の芽が膨らみかけた早春の落葉広葉樹の林床に、いち早く芽を出して花を咲かせる植物たちのことを「春の妖精」、「スプリング・エフェメラル」って呼ぶんだよ。
春の妖精は、カタクリのほかに、セツブンソウやフクジュソウ、イチリンソウにニリンソウなどがあるんだ。どれも小さな草で、地下に球根や根茎を持っており、草丈の割に大きな花をつけるものが多いんだ。
じゃあ、花が終わった後の春の妖精はどうなるか知っているかい? これが意外と知られていないんだよね。実は、花が終わってしばらくすると落葉樹の葉が広がり始め、ゴールデンウィークも過ぎると、森は若葉が覆い繁り林床にはすっかり陽射しが届かなくなるんだ。その頃の林床を見てみると、春の妖精たちは葉を枯らし始めているんだよ。
そう、これで分かったかな。早春から晩春までのわずか2~3ヶ月ほどの間に、地上に芽を出し花を咲かせ、ひっそりと枯れていくことから、「スプリング・エフェメラル」って呼ばれているんだよ。
春の妖精たちがこのようなライフスタイルを持つようになったのも、生き残るための戦略なんだぞ。木々の芽がまだ動き始める前、風は冷たくても林床まで届く暖かい陽射しを活用するために、芽を出し葉を広げ花を咲かせるんだ。そして急いで光合成を行って地下の球根や根茎に養分をしっかりと蓄え、林床に陽射しが届かなくなる頃には、地上の葉を枯らして次の春をじっと待つんだ。どうだい、なかなかの戦略だろう?この潔さと儚さを併せ持った春の妖精たちは、洋の東西を問わず植物愛好家たちの人気者で、早秋になると落葉樹林を歩き回る人がたくさんいるんだよ。みんなもそのしたたかな戦略に思いを馳せながら春の森を歩いてみてはいかがかな。

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