第6話 いかなごのくぎ煮
このあたりで春を告げる魚と言えば、やっぱり「いかなご」ですよね。この時期はいかなごのくぎ煮があちこちの台所で炊かれていて、においで季節を感じます。今回は兵庫県漁業共同組合連合会の山嵜清張さんと一緒にいかなごのくぎ煮を作った日のへぇ~!のヒトコマです。
先生~!いますう?
まあまあ、お久しぶりです。どうぞ、どうぞ、ひとまず上がって。
今日は、中学生向けに、いかなごのくぎ煮の講習会をやってきたところです。
へぇ~!今、ちょうど手があいたところなの。漁師の家に育ったあなたに、山嵜流のくぎ煮の炊き方を是非聞かせて欲しいな。
くぎ煮はいくつかコツがあって、それを押さえれば誰でも簡単に作れますよ。
山嵜家直伝のレシピ?
母に聞いた作り方です。いかなご、持ってきてますんで、良かったら一緒に作りましょか?
嬉しい!!
大きめのザルとボウル。鍋と、醤油、ざらめ、酒、みりん、しょうが、ありますか?アルミホイルも。
はい!はい!わぁ、透き通ったきれいないかなご。鮮度がいいとやっぱりおいしいの?
まず、見た目が違います。新しいのは炊き上がりの艶がきれいです。腹が割れたりしませんし。濃い味で炊くものなので、味はそんなにかわりません。けど、時間が経つといかなごが痩せるというか、鍋の中でいかなご同士の隙間が多くなって、新しいもんより早く炊けます。同じように、大きいものを炊くほうが、小さいものを炊くより、同じ1kg炊いても早いんです。
へぇ~!
これ、大事なんですが、まず、いかなごはこうやって流水で洗ってください。海で泳いでいたもんやから、塩水がついてます。それを洗い流してやるんです。
ふんふん・・。
で、ザルに上げておいて、鍋に調味料を入れます(分量)。強火にかけて、いかなごを入れるんですが、ここも、ちょっと見といて欲しんです。いかなごを鍋に入れたらすぐに指を軽く開いて、そろっといかなごをかき混ぜてやります。これをしないといかなごがくっついて団子になります。くぎ煮ですから、イカナゴが1本づつバラバラの「クギ」の姿に、団子では困ります。
最初に、かき混ぜるのがコツなんですね。
はい、手を入れても、まだいかなごが冷たいから、熱くないんです。しばらくは、このまま強火で。
しょうがの千切りができました。
しょうがを入れて、アルミホイルで作った落しブタをします。
アルミホイルに孔はあけないの?
イカナゴのサイズが 大きくなってくると、孔を開けるとアルミのふたが吹き上がってこないんです。これ、泡がすこしずつ立ってきたでしょ?
この泡で炊くんです。少しでもさわるといかなごの身はくずれてしまいますから。泡の温度は鍋底の温度と同じですから、下のほうも、上のほうも、これでまんべんなく火が通ります。こんな風に、ほらほら、泡がアルミホイルを持ち上げてきました。
ここで少し火を弱めて、吹きこぼれない程度に加減しながら、30分ほどこのまま炊いていきます。
いいにおい。あっ、少し吹いてる。
こんなときは、アルミホイルと鍋の隙間に、少し息をかけると、ほら、泡が少しおさまります。火を弱めるより、早いでしょ?それから、火を加減するとあわてなくても大丈夫。ちょっとした裏ワザです。
へぇ~!
こうして炊いているうちに水分が飛んで、そのうちアルミホイルがいかなごの位置まで下がってきます。さっき30分ほどと言いましたが、面白いもんで、この時間は炊くたびに違ってきます。45分ぐらいかかるときもあるし、その時々でいつも違います。
へぇ~!
鍋を傾けると、煮汁が溜まってますが、まださらっとしています。ここから、弱火で煮詰めます。ちょっと食べてみますか?
おいしい。柔らかいですね。鍋を返したりしないんですか?
しないです、僕は。したらくずれますよ。途中でさわったら絶対ダメなんです。鍋を傾けて煮汁の具合をみるぐらいで。とにかくいかなごに触れないことが大事です。ぼちぼち泡にねばりが出て煮汁が少なくなってきました。
こうして鍋を傾けても、煮汁に粘りがあるので、たまるまで少し時間がかかる状態です。先生、どうします?浅炊きやったら、このくらいの色で止めますけど。
私は色も味も薄めのほうが、色んな料理に使いやすいから、このぐらいがちょうどいいな。
はい。これも大事なことなんですけど、火を止めたらすぐコンロから引き上げて5分ほど置いてください。これがポイントです。飴を固めるようなイメージです。煮汁で固めて煮崩れないようにしたものがくぎ煮なんです。初めて作る方には、弱火5分、コンロからあげて5分といつも説明してます。もっと濃く炊いたのを作るときは、ほんのりプリンのカラメルのようなにおいがするまで煮詰めます。本来はそのくらい炊くんです。
へぇ~!
ザルを用意して、こうして上と下が逆さになるように鍋からあけます。鍋を返さなくても、ここで煮汁が全体にまわるから大丈夫なんです。
なーるほど。
煮汁が切れたら完成です。
おいしい。さっきより、少しかたくなりましたね。くぎ煮です。
山: 関東の佃煮はもっとかたいものが多いので、いかなごのくぎ煮のこの柔らかさが喜ばれるんだそうです。
へぇ~!あの~、恐縮のついでに、釜揚げの仕方も教えてくださいませんか?塩の加減だと思うんですけど、お店で作ってるのはどんな風にしているのかと。
簡単ですよ。釜揚げとウチでよく作るすまし汁も作ってみましょう。
嬉しい!!
【兵庫県漁業協同組合連合会 山嵜清張さんのレシピ】
◆いかなごのくぎ煮
いかなご 1kg
土生姜 30g(千切り)
濃口醤油 200ml
砂糖(ざらめ)230g
酒 50ml *いかなごが大きくなれば、みりんを減らして、酒を増やすとよい
みりん 150ml
アルミ箔
(1)大きなボウルにザルを重ね、いかなごを入れて、必ず流水で浮かすように手を入れて洗う。(塩水を落とすため)
(2)鍋に調味料を入れて指を開き、いかなごをほぐすようにサッと混ぜ、強火にかける。(固まって炊き上がるのを防ぐ)
(3)アルミ箔で作った落としぶたでおおい、しばらく炊いて泡でアルミ箔が上がってきたら、ふきこぼれないように調節。泡がふきこぼれない状態で50~60分炊き続ける。(ふきこぼれそうになったら、息をフッとかけて防ぎ、火は弱めない。IHだと火加減がしやすい)
*途中で鍋やいかなごを絶対触らないこと
(4)泡が減ってアルミ箔が下に降りたら弱火にする。泡に粘りが出てくるのを目安に、好みの色と硬さまで炊いたら、鍋をコンロから下ろし、5分置く。
(5)鍋から上下さかさまになるようにザルに上げ、煮汁を切る。
◆いかなごの釜あげ
いかなご 100g *1回の量をこのくらいで作ると、失敗がない
(1)いかなごはボウルよりやや小さなザルに入れ、ボウルに重ね、必ず流水で浮かすように手を入れて洗う。
(2)大き目の鍋(ザルごと入る大きさ)に湯をわかし、塩分7%になるように塩を入れる。(海水3%より濃い塩水にしないと塩味がいかなごから抜けてしまう)
(3)いかなごが鍋の中で踊り出したら、いかなごをザルごと引き上げる。(トングでザルをはさんであげると便利です)すぐ、ザルに広げてうちわなどであおぎ、水分を飛ばす。
◆いかなごの吸い物(約4人分)
いかなご 100~200g *三つ葉などの薬味や、とき卵などを加えても美味しい
塩 少々
薄口醤油 少々
(1)いかなごはボウルよりやや小さなザルに入れ、ボウルに重ね、必ず流水で浮かすように手を入れて洗う。
(2)鍋に湯をわかし、煮立ったらいかなごを入れる。いかなごが鍋の中で踊り出したら、アクをとり、塩と薄口醤油で味をととのえる。