神戸大学大学院教授 坂本憲広先生をお迎えして
2013/7/12
今回のゲストは神戸大学大学院教授の坂本憲広先生。「科学は大きく分けて基礎・応用・評価の三つの分野があり、私は評価科学、中でも医学・薬品・食品といった分野で一般に有用とされていることがどの程度有効なものかを評価することが専門です。」カロリーオフ飲料や抗インフルエンザウイルス薬の例を挙げられ「カロリーオフということに慢心して、食事自体に気をつけなくなるという調査結果もあります。抗インフルエンザウイルス薬の添付文書にある臨床試験の結果は、薬を飲んだ場合、発熱期間が23時間短くなるという内容です。一定の効果はあると言えますが、詳しいデータのことがわからない一般の方は、印象と実際のデータとは違うと感じることも」消費者はどのようなデータも冷静に受け止めるのが大切とおっしゃいます。
「我々の身体は親から子へと受け継がれるゲノム(遺伝子)だけではなく、腸内細菌の影響を大きく受けます。医学や薬について考えるときには血圧をさげれば血管の負担が減るというような機械的なレベルでは解決しないことが多いんです。」中でも外界との最前線を受け持つのは腸内細菌だそう。「腸内細菌が好むのはどんな食べ物ですか?」と白井。「発酵食品ですね。夏はさっぱりしたものが好まれ食事が単調になりがちですが、食べ物によって活発になる腸内細菌が違いますから、色んなものをバランスよく食べて元気な腸内細菌の種類を増やすことが大切です。」と夏バテへのアドバイスを。病気などで特定の栄養素が必要になる場合を除き、健康維持のためにはサプリメントより食べ物で栄養を摂ることが大切とも。「例えばビタミンEだけよりはそれを含む食べ物を食べることでビタミンE以外の栄養素も摂れ、喜ぶ腸内細菌の種類が増えるということです。細菌からすると人の身体は棲家のようなもの。バランスよく食べることは多様な腸内細菌が活性化するチャンスが増えること。それだけ免疫力が上がります」。
食文化の世界無形文化遺産のひとつ、地中海料理。伝統的な地中海料理を食べる人は、心血管病のリスクが約30%低いという研究報告があるといいます。「オリーブオイルとナッツ、適量のワインが関係しているのではないかと考えられています。次は日本料理も世界遺産にと期待しているんですよ。」「ワイン史の研究もなさっているそうですね。食事の時にお話くださる話題がとても豊かだなぁといつも思います。」と白井。
「海苔を分解する腸内細菌を持つのは日本人と韓国人だけで欧米人にはありません。遠い昔、私たちの先祖が海苔を口にしたとき、偶然くっついていた細菌が体内に入り獲得したものと考えられます。食文化は健康や病気とも大いに関係しているといえますね」。
たくさんのデータや資料を用意して、分かりやすく説明してくださった坂本先生。「科学がここまで発達しても身体のことは分からないことが多いんです。まだ実践してうまくいくことをチョイスする、ということが主流です。」。巷にあふれる情報に耳を傾けながらも、日々の食事はバランスよく楽しくが一番とのシンプルな結論に、会場も夏本番に向けて元気をいただきました。今回の試食は体にやさしいレシピ集より「豚の味噌生姜焼き」をプチ丼にして。(文:土田)