白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

第2話 岩津ねぎ

(操さん)
「トントン!今年の冬は寒くなりそうね。店先で岩津ネギが並び始めたのをみると、今夜はお鍋にしよう!って思ってしまう人多いんじゃないかしら。兵庫が誇る冬のごちそう、岩津ねぎのはなしを聞かせてくださいな」

(ムッシュ・フルーリ)
わしも遙か遠い昔に可愛い子供の頃があったんじゃが・・・、そのころ一番嫌いだった野菜が「ねぎ」。あの強烈な臭いと舌に浸みる辛味、薬味として料理の上にちょこっと乗せている輪切りのねぎをよけて食べては、よく母親に叱られたなぁ。みんなも同じような思い出があるんじゃないかな。でも、今では大好物の野菜の1つになっているんだけどな。

さて、この「ねぎ」という野菜は、結構古くから野菜として食べられていたようだけど、日本原産の植物じゃないんだぞ。元々は、中国の西方の中央アジア北部が原産の植物と考えられているんだ。それが有史以前に中国に伝わり、中国の寒い北部地方で軟白した葉鞘(ようしょう:葉の基部が何枚も重なって茎のようになった部分)を利用する「太ネギ」群と、暖かい南部地方で葉を主に利用する「葉ネギ」群の二大グループに発展したんだ。野菜として「ねぎ」が日本に入ってきたのは、5~6世紀頃といわれていて、かの「日本書紀」には仁賢天皇6年(西暦493年)の記述の中に、「秋葱(あきぎ)」と言う言葉が出てくるんじゃが、これがどうも「ねぎ」だとされているようじゃの。

九条ねぎに代表される「葉ねぎ」
(関西では単に「ねぎ」または「青ねぎ」と呼んでいる)


根深 とも呼ばれる「太ねぎ」
(関西では「東京ねぎ」または「白ねぎ」と呼んでいる)

我が国では、その後「ねぎ」は「き」と呼ばれていたようで、その独特の強い臭いから「気」という漢字を当てていたようじゃな。そして、「き」は一文字なので、「ねぎ」のことを「ひともじ」と言われるようになったんだとか。ちなみに、「にら」は「ふたもじ」と言うそうな。そして、「き」の白い根の部分(実際は根ではなくて葉鞘だがな)を食用としたことから、「ねぎ(根気)」と呼ばれるようになったんだぞ。でも、今では中国で使われていた「葱」という漢字をあてて「ねぎ」と読んでるけどな。

古くに日本に入ってきた「ねぎ」は、長い時間をかけて全国各地で独特の変化を遂げて、様々な地域品種ができあがっているんだぞ。みんなのところにも他地域にはない地域品種があるんじゃないかい?
ところで、「日本三大ねぎ」って知ってるかい? 誰が決めたのかは知らないけれど、群馬の「下仁田ねぎ」に福岡の「博多万能ねぎ」、そして我が兵庫県が世界に誇る「岩津ねぎ」なんだ。ええっ、京都の「九条ねぎ」じゃないのかって? 確かに「九条ねぎ」の方が知名度も消費量も上回っているけどなぁ。あまりにも一般的になってしまったからなのかなぁ。

岩津ねぎの栽培風景(雪中)
「岩津ねぎ」は一時、最盛期の十分の一ほどにまで生産量が減ってしまい、存続が危ぶまれるところまで落ち込んだんじゃが、地域のみんなの頑張りにより、現在はその最盛期を超えるほどにまでV字回復しているんだぞ。
岩津ねぎの出荷姿

この「ねぎ」が朝来に導入された時期は定かではないようだけど、江戸時代に、この地の生野銀山のお役人が、銀山で働く労働者の冬の栄養源として、当時、葉ネギとして有名だった京都の「九条ねぎ」を導入したのが始まりらしいぞ。その後、昭和初期に関東の「太ねぎ」が導入されて、これとの雑種で今の岩津ねぎの基礎ができあがったんじゃ。でも、当時は地場消費が主だったので、各農家が種子を採って代々作られていたので、農家ごとの品質のばらつきが多かったようなんじゃ。だが、その美味しさが知れ渡り、広く流通するようになったこともあり、品質のバラつきをなくして、地域として統一したブランドを確立するため、地域を挙げて品種の再選抜が行われ、その結果、現在市場に出回っている、白い葉鞘も緑の葉も食べられて、柔らかくてねっとりとした舌触りの「岩津ねぎ」が完成したってわけじゃの!!

冬のお鍋、特に但馬牛のすき焼きに入れたトロットロの「岩津ねぎ」は最高じゃな。えっ、焼きねぎも最高に旨いって? もちろん、それも最高じゃが、白井先生の料理も楽しみじゃな。

(操さん)
「おいしい岩津ねぎが広く出回るのは嬉しいこと。何より今まで岩津ネギのタネを大切に守り伝えてくださった方々に心から感謝ですね。産地では台風で白い部分が曲がって大変な時期があったとも聞きました。そんなご苦労にも感謝して今年は岩津ネギを味わいたいと思っています。鍋もいいけど、岩津ネギを洋風に楽しむワイン蒸しはいかが?。栄養たっぷりの岩津ネギをたくさん食べて冬をおいしく乗り切りましょう」
白ねぎのワイン蒸し レシピ

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