白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

夜に眠る合歓木

梅雨も終わりを迎える頃、夕方になると大きく広げた葉の上に薄紅色の刷毛のような妖艶な花を咲かせるネムノキ。 そう、タイトルの合歓木はネムノキと読むんだぞ。
夜に眠る合歓木①ネムノキの花 ネムノキの花

ネムノキはどうしてネムノキと言われるようになったのかは、みんなくらいになるともう知っているはずだな。そう、夜になると綺麗に葉を折りたたんで、眠ったようになってしまうから、「眠りの木」転じてネムノキとなったんだな。
夜に眠る合歓木④夜に閉じた葉 夜に閉じた葉

じゃあ、どうして「眠の木」ではなくて、「合歓木」と漢字で書くのかな? これを知っている人はなかなかのものだぞ。この名前は、元々中国での呼び名で、夜になって葉を綺麗に合わせることから、男女が夜に共寝をすることになぞらえて、それを意味する言葉「合歓」が使われたようなんだ。漢字は中国から、名前は日本語からきていて、昔の人がそれをくっつけてしまったわけさ。
このように、植物の名前には、中国語の言葉、すなわち漢語に日本語の読みを当てたものが結構たくさんあるんだぞ。たとえば、杜若(カキツバタ)、菖蒲(アヤメ)、紫陽花(アジサイ)、向日葵(ヒマワリ)、薔薇(バラ)などなど、挙げると切りがないぞ。 昔はそれだけ漢語の影響が大きかったってことだね。

さて、話を元に戻して、ネムノキの花をよく観察すると、薄紅色の細い糸のようなものがたくさん集まって刷毛のような形をしてるよね。これは実は雄しべの集まりで、5枚の花弁と萼は、長い雄しべの下の方に目立たぬようにこじんまりと佇んでるんだよ。なんと、奥ゆかしいことか!
さらに、花の後には実がなるんだけど、この実を見れば誰しも豆の莢だと思うだろう? そう思って当然で、ネムノキは分類学上マメ科に属しているんだぞ。この豆の莢は葉が落ちる冬になっても残っていて、冬の間に強い北風に飛ばされて遠くに運ばれるんだってさ。
夜に眠る合歓木③ネムノキの果実(豆の莢状) ネムノキの果実(豆の莢(さや)状)

さあ、ここから本題だけど、葉が閉じる仕組みはどうなっているかってことだけど、ネムノキの葉は小さな葉がたくさん集まって1枚の大きな葉のような形をしているだろう。このような葉を複葉といって、元は1枚の葉に多くの切れ込みが入って、細かくなっていったもので、小さい葉(これを小葉と呼ぶんだがな)が1枚の葉じゃないんだぞ。この小葉の付け根に葉沈(ようちん)と呼ばれる細胞の塊があって、それを構成する細胞の一つ一つが水分を吸ってパンパンに膨れると小葉が開き、水分が減って細胞の圧が小さくなると閉じてしまうんだ。どうだい、巧くできてるだろう?
ところで、どうして夜になると閉じるのかって? 夜には光合成をする必要がないので、葉を閉じることによって、夜に放射冷却によって葉から大気中へ輻射熱が逃げるのを防ぐためだとか、昆虫などに葉を食べられにくくしているとか、いくつか説はあるようだけど、実はその謎にはまだ結論が出ていないんだよ。
夜に眠る合歓木②ネムノキの複葉(これが一枚の葉) ネムノキの複葉(これが一枚の葉)

象潟(きさかた)や 雨に西施(せいし)が 合歓(ねぶ)の花(「奥の細道」より)

この夏は、こんな情景を思い浮かべながら、合歓の花を楽しんでみては如何?

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