お正月と言えば黒豆 その②
さて、前回に引き続いて、黒豆の話の第2弾。 農家の皆さんが手塩にかけて苦労して作った丹波黒大豆。 真っ黒な極大粒で、まん丸で表面に白い粉を纏っていて、まるで芸術作品。 「黒いダイヤ」って呼ばれるのも無理はないよね。ところで、黒大豆に限らず、豆類の中では珍しく大豆は丸い球形をしているよね。でも、水で戻すとラグビーボールのような楕円形になるよな。どうして大きな球形にならないのかって? 折角だから、種明かしをしよう。
まず、君たちが根本的に間違っているのは、どうして丸い豆を水に戻すと楕円形になるのかって考えてるところ。 みんなは枝豆をよく食べるよね。しかも、枝豆は大豆の未熟な種子だってことも知ってるよね。そうしたら、枝豆の粒の形は? もちろん楕円形だよね。さあ、間違いが分かったかな? そう、丸いのが楕円になるのではなく、もともと楕円形だったのが、水分を吸収して元の形に戻っただけなんだよ。じゃあ、どうして大豆は乾燥して種子になると丸く球形になるのかって? 引続いて種明かしをしよう。
丹波黒大豆の枝豆 ※出典:篠山市HP
植物の種子というものは、繁殖のための手段であることに違いはないけど、発芽に適した環境に巡り会うまでは、乾燥や低温・高温などの過酷な環境に耐えなくてはならないんだ。そのために最も適した形というのが球形なんだぞ。物質の体積に対して最も表面積が小さい形が球形だってことは知ってるかな? 表面積が小さいってことはそれだけ周りの環境に影響されにくいってこと。だから植物の種子は球形が多いんだぞ。 分かったかな?
乾燥したときと水分を含んだときの形の違いは、種子を構成する細胞の収縮度合いの違いによるもので、一般に豆の「へそ」と呼ばれている部分が収縮率が周りの細胞より小さいので、その部分が水分を含んでもあまり膨張しないことから、結果として楕円形になってしまうのさ。
ところで、大豆は「畑のお肉」と呼ばれるほどタンパク質の含有量が多いんだけど、炭水化物(でんぷんや糖)を多く含んでいる豆類の中では珍しいよね。しかも、タンパク質だけでなく、脂質も多く含んでいるから、世界的には大豆油を搾油するために大量に栽培されているんだ。
植物学的に見ると、マメ科の植物は根に根粒という組織を持っているものがあり、大豆もその一つなんだ。根粒とは、根粒菌という細菌が共生している組織で、根粒菌は植物から栄養分を提供してもらう代わりに、大気中の窒素を植物にとって使いやすいアンモニアに転換(これを窒素固定という)するんだ。
大豆の根粒(根の丸い粒)
窒素は植物にとって必須元素で、肥料の成分としても知られているよね。空気中には豊富な窒素があるけど、それを植物が利用するには細菌か雷に頼るしかないんだよね(水田に雷が落ちると空気中の窒素が酸化されてできた窒素酸化物が水に溶けて土壌に固定され、その結果として稲が豊作になることから、雷を稲妻や稲光と言うようになったんだぞ)。その根粒菌は窒素固定の能力が高いために、それと共生する植物は自ら窒素肥料を作ることができることになり、やせている土地でも育つことができるんだ。大豆も根粒菌との共生によって十分な量の窒素分を吸収し、豊富なアミノ酸を生産でき、その結果としてその種子に他の植物では見られないような豊富なタンパク質を蓄えることができているんだ(タンパク質はアミノ酸が多数結合したもの)。 どうだい、大豆は凄い能力を持っているだろう!
さらに、大豆はそのまま食べる枝豆や、豆もやしだけでなく、加工食品の原料としても優れていて、味噌、豆腐、油揚げ、おからに高野豆腐、湯葉、醤油、豆乳、納豆、きな粉などなど、数え挙げれば切りがないほどの加工食品の原料として使われていて、もはや大豆がないと和食は成り立たないよね。いずれにしても、大豆は我々日本人にとってなくてはならない食品であり、しかも非常に優れた食品であることは間違いなく、これからも日本人の食の中心でありつづけるだろうね。
大豆を利用した食品 ※出典:農林水産省HP