白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

これは花弁?、萼弁?、それとも苞?(その②)

前回は、植物の基本的なことを覚えてもらったけど、今回はいよいよ本題に入るぞ。
花弁や萼弁など、花を構成する要素は葉が変化したものだってことは前回話したけど、今回は、その葉が変化したものがさらに変化するって話をしようか。

みんなが綺麗な花だと言って庭に植えたり、切り花で観賞している花の中には、花弁がなくなっているもの、もしくは、ほとんど小さくなってしまっていてその役割(受粉を手伝ってくれる昆虫たちを呼び寄せること)を果たしていないものがあるんだ。では、どんな花が花弁がなくなってしまっているのか、実際の植物の写真を見てみよう。

実は、花弁が退化してほとんどその役目を果たしていなくて、萼弁が花弁の役割を果たしている分類学上のグループがあるんだ。それは、キンポウゲ科に分類される植物たちなんだぞ。キンポウゲ科に属する植物たちは、花好きのみんなには最もポピュラーなグループだよね。クリスマスローズ、アネモネ、クレマチス、ラナンキュラス、デルフィニウム、オダマキ、ユキワリソウ、トリカブト、キンポウゲ、カラマツソウ、セツブンソウ、シラネアオイ、イチリンソウ、シュウメイギク等々、数え上げれば切りがないよね。
クリスマスローズ
(雄しべの付け根に退化して袋状になった小さな花弁がある)

アネモネ

クレマチス

ラナンキュラス

セツブンソウ
(雄しべの外側に先端が黄色いマッチ棒状の花弁がある)

アジサイ
(花の中心にある小さな粒状のものが、花弁に包まれた雄芯と雌芯)

この植物たちの花は、一見すると綺麗に色づいた立派な花弁を持っているように見えるんだけど、その花弁のように振る舞っているのはみんな萼弁なんだぞ。クリスマスローズやセツブンソウなど、花弁の痕跡がわずかに残っているものもあるんだけど、ほとんどは消えてなくなっているんだ。その証拠に、花弁の下には、本来必ず萼弁があるはずなんだけど、これらのキンポウゲ科に属する花を見ると、花弁のようなものの下には萼弁らしきものがないのが分かると思うよ。その理由は花弁に見えているのが萼弁だからさ。あっ、そうだ。ついでにもう一つ、アジサイの花も色づいてる花びら状のものは萼弁だからね。

じゃあ、もう1つ事例を挙げてみようか。今度は、花弁も萼弁もほとんどなくなっているか、ものすごく小さくなっている花で、葉が花弁の役割を担っている植物なんだ。
ところで、みんなは苞(ほう)という部分を聞いたことがあるかな。これも葉が変化したものなんだけど、つぼみの時は花全体を包んだりして、外敵から大事な花を守る役目を持っているのが本来なんだけど、その役目以外に、形を変えて綺麗に色づくなどして、昆虫たちの目を引く存在にまでなった苞があるんだ。その代わり花弁や萼弁は小さく地味な存在か、ほとんど消えてなくなっているんだけどね。
みんながよく知っている植物では、ポインセチア、ブーゲンビレア、ミズバショウやカラー、ハナミズキなんかがそうだけど、どれも小さくなった花が苞に包まれているか、苞の中心部に固まっているよね。このように、小さくて目立たない花の受粉を手伝ってくれる昆虫たちを引き寄せるために、苞が花弁の代わりをしているんだね。どうだい、植物たちも子孫を残して生き残っていくために、いろいろな戦略を立てていることが分かったかな。
今回もイイ勉強になっただろう!
ポインセチア(赤いのが苞)

ブーゲンビレア(赤いのが苞)

ミズバショウ(白いのが苞)

ハナミズキ(ピンク色のが苞)

これは花弁?、萼弁?、それとも苞?(その①)

これまでも我が輩の話の中で、花びらだと思っていたら萼だったとか、苞だったとかっていうのが何度か出てきたことを覚えてるかな。今回は、この辺の話をあらためて勉強してもらおうと思ってな。
さて、この話をする前に、まず、植物の基本をしっかりと復習してもらおうかな。植物の体はすべて、葉と茎と根の3つの部分からできているんだ。こういうと、すぐに、じゃあ、花はどうなの?っていう質問がすぐに飛んでくるんだな。まあまあ、そんなに慌てなさんな。
    花の構造

では、その質問から答えるとするかな。一見して見るからに葉、茎、根以外の部分というのは、実はこの3つのどれかが形や色を変化させているだけなんだぞ。この中で、最も変化が大きくて、かつその種類が多いのが葉なんだ。
では、その変化の種類を書き出してみると、

葉:花弁、萼弁、雄しべ、雌しべ、子房、苞、巻きひげ、吸盤、刺など
茎:刺、蔓、ランナー、塊茎、球茎、根茎など
根:気根、呼吸根、支柱根、板根など

どうだい、茎や根が変化したものは、何となくそれらしいものばかりだけど、葉が変化したものは、雄しべや雌しべ巻きひげに吸盤、さらには刺など、その形からは想像も付かないものもあるだろう?
さらにもっと言えば、花は花柄以外はすべて葉が変化したものってことさ。だから花を構成している各部分のことを、専門用語で花葉(かよう)って言うんだぞ。さあ、それでは実際の変化を写真で見てみようか。

ヤブガラシの巻きひげ(葉が変化)

ツタの吸盤(葉が変化)

サボテンの刺(葉が変化)

バラの刺(茎の表皮が変化)

イチゴのランナー(茎が変化)

グラジオラスの球茎(茎が変化)

ショウガの根茎(茎が変化)

ラクウショウの呼吸根(根が変化)

支柱根(根が変化)

板根(根が変化)

いろいろに変化した葉や茎や根を見てきたけど、どうだい、なかなかの変身ぶりだろう?
じゃあ、続きは次回、葉が変化した花がさらに変化していく実態を見てみようか。

お正月と言えば黒豆 その②

さて、前回に引き続いて、黒豆の話の第2弾。 農家の皆さんが手塩にかけて苦労して作った丹波黒大豆。 真っ黒な極大粒で、まん丸で表面に白い粉を纏っていて、まるで芸術作品。 「黒いダイヤ」って呼ばれるのも無理はないよね。ところで、黒大豆に限らず、豆類の中では珍しく大豆は丸い球形をしているよね。でも、水で戻すとラグビーボールのような楕円形になるよな。どうして大きな球形にならないのかって? 折角だから、種明かしをしよう。
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まず、君たちが根本的に間違っているのは、どうして丸い豆を水に戻すと楕円形になるのかって考えてるところ。 みんなは枝豆をよく食べるよね。しかも、枝豆は大豆の未熟な種子だってことも知ってるよね。そうしたら、枝豆の粒の形は? もちろん楕円形だよね。さあ、間違いが分かったかな? そう、丸いのが楕円になるのではなく、もともと楕円形だったのが、水分を吸収して元の形に戻っただけなんだよ。じゃあ、どうして大豆は乾燥して種子になると丸く球形になるのかって? 引続いて種明かしをしよう。
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植物の種子というものは、繁殖のための手段であることに違いはないけど、発芽に適した環境に巡り会うまでは、乾燥や低温・高温などの過酷な環境に耐えなくてはならないんだ。そのために最も適した形というのが球形なんだぞ。物質の体積に対して最も表面積が小さい形が球形だってことは知ってるかな? 表面積が小さいってことはそれだけ周りの環境に影響されにくいってこと。だから植物の種子は球形が多いんだぞ。 分かったかな?
乾燥したときと水分を含んだときの形の違いは、種子を構成する細胞の収縮度合いの違いによるもので、一般に豆の「へそ」と呼ばれている部分が収縮率が周りの細胞より小さいので、その部分が水分を含んでもあまり膨張しないことから、結果として楕円形になってしまうのさ。

ところで、大豆は「畑のお肉」と呼ばれるほどタンパク質の含有量が多いんだけど、炭水化物(でんぷんや糖)を多く含んでいる豆類の中では珍しいよね。しかも、タンパク質だけでなく、脂質も多く含んでいるから、世界的には大豆油を搾油するために大量に栽培されているんだ。
植物学的に見ると、マメ科の植物は根に根粒という組織を持っているものがあり、大豆もその一つなんだ。根粒とは、根粒菌という細菌が共生している組織で、根粒菌は植物から栄養分を提供してもらう代わりに、大気中の窒素を植物にとって使いやすいアンモニアに転換(これを窒素固定という)するんだ。
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窒素は植物にとって必須元素で、肥料の成分としても知られているよね。空気中には豊富な窒素があるけど、それを植物が利用するには細菌か雷に頼るしかないんだよね(水田に雷が落ちると空気中の窒素が酸化されてできた窒素酸化物が水に溶けて土壌に固定され、その結果として稲が豊作になることから、雷を稲妻や稲光と言うようになったんだぞ)。その根粒菌は窒素固定の能力が高いために、それと共生する植物は自ら窒素肥料を作ることができることになり、やせている土地でも育つことができるんだ。大豆も根粒菌との共生によって十分な量の窒素分を吸収し、豊富なアミノ酸を生産でき、その結果としてその種子に他の植物では見られないような豊富なタンパク質を蓄えることができているんだ(タンパク質はアミノ酸が多数結合したもの)。 どうだい、大豆は凄い能力を持っているだろう!

さらに、大豆はそのまま食べる枝豆や、豆もやしだけでなく、加工食品の原料としても優れていて、味噌、豆腐、油揚げ、おからに高野豆腐、湯葉、醤油、豆乳、納豆、きな粉などなど、数え挙げれば切りがないほどの加工食品の原料として使われていて、もはや大豆がないと和食は成り立たないよね。いずれにしても、大豆は我々日本人にとってなくてはならない食品であり、しかも非常に優れた食品であることは間違いなく、これからも日本人の食の中心でありつづけるだろうね。
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大豆を利用した食品 ※出典:農林水産省HP