白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

第1話 日本人にとってのお米 (ムッシュ・フルーリ みどりの扉)

 (操さん)
「トントン!ムッシュ・フルーリはおいしい新米、たくさん楽しみましたか?
私たち日本人の食卓を長く支えてくれたお米。今回は身近なお米のはなしを聞かせてくださいな」

 (ムッシュ・フルーリ)
日本人の精神、生活文化に大きく影響を与えている稲作。稲作を語らずして日本人は語れないほど、稲作と日本人の関係は切っても切れない深い縁で結ばれていた。と、過去形で書いたのは、最近その縁が薄れてきているように感じることが多々あるからだ。

あれっ? しばらくお休みしている間に何か口調が大きく変わったなあって思ったんじゃないかな。いやいや、たまには、ちょっとお堅い口調で書いてみるのも良いかなって思ってみただけさ。でも、やっぱり肩が凝ってくるので、本来の口調に戻すことにするよ。

さて、みんなも良く知っているとおり、稲作によって生産されるのは、もちろんお米だよね。3千年以上も前から延々と日本人は稲作を続けてきた、お米の大好きな民族なんだぞ。そのお米の消費量が年々、どんどん減っているんだよ。
日本人1人当たりの1年間に食べるお米の量は、昭和37年には約120kgもあったんだけど、平成27年には何と半分以下の約55kgにまで減ってしまっているんだぞ。これだけ減れば、そりゃあ田んぼも余ってくるよね。だから、米の生産調整(いわゆる転作、または減反)という制度が始まって、今では、日本中の田んぼの半分近くに稲が植えられていない状況なんだ。みんなのご先祖様が、ごはんを食べるために一生懸命に山を切り拓いてきた田んぼなんだけどなぁ。それが今じゃ、半分も使われていないなんて、みんなはどう思う?。


ところで、みんなは、1日にごはんをどれくらい食べているんだい? えっ、1合ぐらいだって? みんなもそれなりのお歳だから、それくらいしか食べられないよなぁ。さて、お米1合と言えば約150g、それを炊いてごはんにすると約300gで、お茶碗一杯のごはんが約150gだから、1合のお米でお茶碗二杯分のごはんになるってことだな。毎日1合(150g)のお米をコンスタントに食べているとすれば、1年間で食べるお米の量は、150g×365日=54,750g≓55kgとなって、さっき言ってた、日本人1人当たりの1年間に食べるお米の量と、ピタッと同じになるね。そうなんだ、赤ちゃんからお年寄りまで、もちろん外食なども含めて、全ての日本人が平均して一日にお茶碗二杯分のお米しか食べていないと言うことなんだよな。みんなは、これを少ないと思うかい、それとも多いと思うかい? 因みに、ごはんお茶碗二杯分のお米(150g)は、たった56円ほどなんだぞ(精米5kgで1,850円程度の平均的なお米の値段で計算し、年間では2万円ほどの支出)。

さて、ごはんとして食べる以外にも、お米はいろいろなものに加工されているんだけど、その中で一番多いのはなんだと思う? おっ、そのとおり!
お酒、日本酒だねぇ。みんな分かってるねぇ。日本で1年間に生産されるお米が約800万トン。そのうち酒造りに使われる量が約25万トンで、55万5千キロリットルのお酒が造られているんだ。

えっ、その酒造りに使われる25万トンが全て酒米っていうことかって? いやいや、兵庫県が世界に誇る「山田錦」等の酒米は、「酒造好適米」と言って、酒造り専用のお米なんだけど、それらは年間9万トン程度しか生産されないんだ。じゃあ、それ以外はどんなお米かって? それは、加工用のお米や主食用のお米がつかわれているんだ。「山田錦」のような高価な酒米は、大吟醸酒、吟醸酒や純米酒など、「特定名称酒」と呼ばれる高級酒に主に使われているんだぞ。その日本酒も、ピーク時の昭和48年には約177万キロリットルも出荷されていたんだけど、今では55万5千キロリットルとなって、全盛期の3分の1以下にまで減ってしまっているんだ。

寂しい話だけど、今の日本人には、ごはんもお酒もそれほど大切なものでなくなってしまってるんだね。

(操さん)
「ふ~む。お米のこと、もっと大事にしたいな。おいしいごはんをこれからもずっと食べたいですものね。今年も早いもので、もう師走。おせちの準備で黒豆を買ったら、ぜひ作って欲しいのが『梅風味の黒豆おにぎり』。おにぎりはお米を一番身近に感じるレシピかもしれませんね。

梅風味の黒豆おにぎり レシピ

いずれピーマン、パプリカ、唐辛子

しばらく猛暑が続いてるけど、みんなは大丈夫? 夏バテしてないかい?
さて、夏の野菜の代表格と言えば? そう、ピーマンだね。 えっ、ナスだろうって? まあ、ナスも夏野菜の代表だけれど、今回はピーマンの話をするぞ。

ピーマンと言えば、昔から子供嫌いの野菜のトップに君臨しているんだけど、あの独特の香りと苦み、大人にはあれが美味しさの素なんだけどな。最近は子供ピーマンなんてのが出てきて、あの香りも苦みなくて甘みが強い品種で、子供達も喜んで食べるそうだな。
 ピーマン

ピーマンに似ているけど、色と大きさが違うパプリカって言うのもあるよね。これは、肉厚で甘みがあるのでピーマンほど嫌われていないみたいだな。
 パプリカ(カラーピーマン)

日本に昔からある(と言ってもせいぜい400年ほど前くらいからだけどな)唐辛子もピーマンの仲間だけど、辛みのないシシトウや甘唐辛子って言うのもあるよな。
 シシトウ
 伏見甘唐辛子

さあ、色々とピーマンの仲間が出ていたけど、ここでちょっと整理しておこうか。では、結論から言うと、ピーマンも、唐辛子も、甘唐辛子も、パプリカも、全て中南米に自生している学名をCapsicum annuum と言うトウガラシから育成されたものなんだぞ。

あのアメリカ大陸発見で有名なコロンブスが、インドの胡椒を求めて大航海をしていたところ、カリブ海の西インド諸島に到着。アメリカ大陸をインドと勘違いして(インドの西側にあったので西インド諸島と名付けられたんだ)、さらにそこで利用されていた唐辛子を赤い胡椒と間違えたことから、今でも唐辛子をレッド・ペッパー(赤い胡椒 red pepper)と呼んでいるんだぞ。勘違いもここまでくると恐ろしいなぁ。

日本へは、コロンブスがレッド・ペッパーをスペインに持ち帰ってから、僅か50年ほど後にポルトガル人宣教師によってもたらされたらしいぞ。日本に導入されてからしばらくは、食用ではなく、毒薬や観賞用、さらには足袋のつま先に入れて霜焼け止めに使われていたんだとさ。

15世紀末にヨーロッパにもたらされたトウガラシは、瞬く間に世界中に拡散して、その後地域で独特の品種が育成されていったんだな。それが、ピーマンになり、パプリカになり、シシトウになり、甘唐辛子になったんだ。
この唐辛子類は、利用の面から分類すると、辛みがなくて野菜として利用するアマトウガラシ類と辛みを香辛料として利用するトウガラシ類に大きく二分されるんだ。そして、アマトウガラシ類には、ピーマンを代表として、パプリカ、シシトウや、京都野菜の伏見甘唐辛子、万願寺唐辛子などがあり、辛いトウガラシ類には鷹の爪に代表されるけど、日本にも50種類以上の品種があるんだってさ。
 鷹の爪
因みに、激辛で有名なメキシコのハラペーニョはトウガラシ(Capsicum annuum)だけど、同じメキシコのハバネロやインドのブート・ジョロキアは、トウガラシとは別の野生種(Capsicum chinense)から育成された品種なんだ。
ところで、観賞用のトウガラシもピーマンや鷹の爪と同じトウガラシから育成されたものだぞ。もう一つ因みに、ピーマンという名前は、フランス語のPimentが素になっているらしいぞ。
  観賞トウガラシ

 

 ここで、ムッシュ・フルーリからの重大発表じゃ!

もうかれこれ3年ほど、主に花や野菜に関する「へぇ~な話題」を紹介してきたんだが、そろそろ持ちネタも少なくなってきたので、ここらでちょっと趣向を変えようと思ってな。 日頃、白井先生が料理の材料として使っている様々な食材をテーマに、白井先生から疑問な点などのお題をいただいて、それをわしの豊富な知識をもって、紐解いていこうと思っとるんじゃ、楽しみじゃのぉ。

では、乞うご期待!!

沙羅樹

♫ 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす ♬

この一節は、知らない人はいないよねぇ。高校生の古文の授業で暗記させられて、今でも空で口ずさめる人も多いんじゃないの? そう、みんなも良く知っている「平家物語」の冒頭の部分だよね。 じゃあ、この文中にある沙羅双樹っていう木はどんな木か知っているかい? 沙羅双樹っていう言葉は誰しも知っているんだけど、この言葉が何を示しているのか知らない人が結構多いんだよ。 と言うことで、今回は沙羅双樹にまつわる話をするぞ!

 シャーラ(沙羅双樹)
まず、沙羅双樹とは、印度菩提樹、無憂樹とならび仏教三大聖樹(仏教三霊樹)のひとつとされていて、お釈迦様が入滅する際にそばに生えていたとされる木なんだけど、サンスクリット語でシャーラと呼んでいたので、それが仏教伝来と時を同じくして日本に入り、日本語のシャラノキ(沙羅樹)となったようなんだ。ところが、このシャーラはインドの熱帯地域に自生する樹木(フタバガキ科)で、もちろん日本には自生していなくて、中国や日本のような温帯地域では冬の低温で枯れてしまうんだよ。 そこで、その代用として考えられたのが、日本に自生しているシャラノキ(沙羅樹)、すなわちナツツバキなんだ。見かけはちっとも似ているとは思わないんだけど、花色が白くて、花が1日しか保たないこと、それに花首からポトッと落ちることなどから、シャーラをイメージしたらしいんだけどね。
 ナツツバキ(沙羅樹)
 ナツツバキの紅葉

さて、シャラノキことこのナツツバキは、庭木にも良く使うし、全国のお寺にも植えられているから知っている人も多いよね。名前どおり、ツバキ科の落葉高木で6月から7月にかけて白いツバキのような花を咲かせるんだ。日本には、ナツツバキの近縁で葉と花がいくぶん小さいヒメシャラという樹木もあるんだけど、どちらも成熟した木になると樹皮が剝がれて幹肌がツルッツルになって凄く綺麗なんだ。だから、この木をサルスベリって呼んでいる地方もあるらしいよ。
 ナツツバキの樹皮

ついでに、仏教三大聖樹とは、
無憂樹(マメ科):釈迦が生まれた所にあった木
印度菩提樹(クワ科):釈迦が悟りを開いた所にあった木
娑羅樹(フタバガキ科):釈迦が亡くなった所にあった樹木
なんだそうだぞ。
 無憂樹

最後に、お釈迦様が入滅された際に、その四隅に2本ずつのシャーラが生えていたところから、対の木を意味する双樹、すなわち沙羅双樹と呼ばれているらしいぞ。だからシャーラすなわち日本ではナツツバキを指すときには、沙羅樹と書くんだぞ。間違わないようにな!