白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

多肉植物の世界

さて、前回のサボテンに引き続き、今回はサボテン以外の多肉植物について勉強してもらうぞ。といっても、サボテンとは違って、類縁関係のないいろいろな植物の集まりのうえに、サボテン以上に種類数が多くて、これまた一口には言えないんだよ。・・・・・と言っていても始まらないので、限られた紙面の中でわかりやすく説明するとするかな。

多肉植物とは、葉、茎または根に水を貯蔵して、肉厚になった植物の総称って言うのは、前々回で勉強したね。もちろんサボテンも多肉植物の一部なんだけど、サボテン科として共通の形態を持った大きなグループだから、独立して扱われてるんだったね。
じゃあ、サボテン以外の多肉植物ってどんなものがあるんだろう、みんな頭の中に思い浮かべてごらん?  うんっ? アロエにマンネングサ、金の成る木にマツバギク、リュウゼツランにベンケイソウ、バオバブ。お~ぉ、どんどん出てくるねぇ。
今みんなが頭の中に思い浮かべた多肉植物は、水分を貯蔵する組織を持っているという共通点だけで一括りにされているんだから、そりゃあ、世界中にたくさんあって当たり前だよね。
 マツバギク
 オオベンケイソウ
 アエオニウム・アルボレウム
 ハオルシア・マグニフィカ

*多肉植物の中でも、植物学的な分類で多くの種を含むものとしては、ハマミズナ科、ベンケイソウ科、トウダイグサ科、ツルボラン科などがあり、これらの科はそれに属するほとんど多くの植物が多肉植物なんだ。マツバギクに代表されるハマミズナ科は、メセン類とも呼ばれ、リトープスやコノフィツムなどの葉が高度に多肉化したものが含まれ、また、ベンケイソウ科は、代表格のベンケイソウをはじめ、金の成る木やマンネングサを含み、ツルボラン科はアロエなどを含んでるんだ。トウダイグサ科にはみんなもよく知っているポインセチア(多肉ではない)が含まれるけど、千種ほどの多肉植物があるんだぞ。*
 リトープス
 キダチアロエ
 リュウゼツラン
 バオバブ

最近は、雑貨屋さんなどで、鉢土が樹脂などで固められたサボテンや多肉植物が売られているのをよく見るけど、形や色が面白いので、インテリア小物として室内に飾るのはかまわないけど、あくまでも生きている植物だってことを忘れないでほしいよね。長期間水をやらなくても枯れないので、すっかり物扱いされてしまっていて、悲しくなるよ。売る方も売る方だけど、買う方も買う方だね。みんなの中にはそんな物を買ってきて室内に飾っている人がいないことを信じたいよ。

多肉植物が生えている環境というのは、もちろん極端に乾燥するところなんだけど、一年間全く雨が降らないっていうわけじゃなくて、多くのところでは、雨の降る時期と降らない時期、すなわち雨季と乾季がはっきり分かれているんだ。多肉植物も生きている植物だから、生長する時期に水分を必要とするのは当たり前。乾燥地帯でも、短いながらも雨の降る時期があるので、雨期の間に貴重な雨水を最大限利用して生長するんだ。そして、乾期に備えて体内に十分な水を蓄えておくんだよ。そうすることによって雨の降らない時期を耐えることができるのさ。

多肉植物が水を貯める能力があるのは、その形を見ればわかることだけど、それ以外に乾燥に耐えるための仕組みがあるんだぞ。それは、体内に貯蔵した水分をいかに減らさないようにするかってこと。通常の植物は葉の裏に気孔というごく小さな穴があって、そこから余分な水分を蒸発させたり、光合成を行うための二酸化炭素を取り込んだりしているんだけど、多肉植物は日中の高温時には気孔を閉じたままにしておくことで、体内の水分の減少を抑えているのさ。 ん?ちょっと待てよ。日中に気孔を閉じていたら光合成に利用する二酸化炭素が取り込めないじゃないかって? ご心配には及びません。多肉植物は夜間に気孔を明けて、そこから取り込んだ二酸化炭素を濃縮して細胞内に貯蔵する能力を備えているのさ。だから、日中は貯蔵している二酸化炭素を活用して、豊富な日射で光合成ができるってわけさ。どうだい、多肉植物って、なかなかすごい能力を秘めてるだろう?

仏様の後背を持った花たち

今やゴールデンウィークまっただ中。今年はどこにお出かけかな。
えっ、どこにも行く予定はないって! そんな寂しこと言わないで、久しぶりに夫婦でお寺巡りなどは如何かな?

さて、お寺のご本尊の仏像を拝見すると、仏様の後ろに衝立のように立っているものがあるだろう? それは後背って言うんだけど、仏様が放つ後光を表したものなんだって。
 東寺の不動明王

ところで、植物にも仏様の後背のように、花の後ろや周りに衝立のようなものを付けているのがあるんだけど、みんなは思いついたかな?

おっ、さっそく思いついた人もいるようだね。そう、ミズバショウやカラー、アンスリウムなんかがそうだね。それらの花の構造をよく観察してごらん。花茎の先端にこん棒状のものがあり、その周りを取り囲むように色づいた、一枚の花びらのようなものが取り囲んでるよね。アンスリウムは取り囲まずに、後ろまたは下側に平べったく立っているけどね。こん棒状のものを仏様としたら・・・、ね、色付いた一枚の花びら状のものが後背に見えるだろう?
 ミズバショウ
 カラー
 アンスリウム

この一枚の花びら状に見えるものを、植物学の世界では仏様の後背に見立てて、「仏炎苞(ぶつえんほう)」って呼んでるんだ。なかなかいいネーミングだろう? この「仏炎苞」は名前のとおり「苞」の一種で、サトイモ科の植物に特徴的なものなんだ。えっ、「苞」って何だって? じゃあ、もう一度おさらいしておこうか。「苞」とは、花や花の集まりである花序の基部にあって、蕾の時から花を保護している葉が変化したものなんだぞ。 その「苞」が大きくなったり、色付いたりして花びらの代わりに昆虫たちを呼び寄せる役目を果たしているのさ。ほら、ブーゲンビレアやハナミズキ、ポインセチアなどがそうだったよね。覚えているかな?

サトイモ科の花は、「仏炎苞」に囲まれたこん棒の周りにびっしりとたくさん並んでいるんだけど、花びらも萼もなくて、雌しべと雄しべしかないんだ。だから、仏炎苞に花びらの役目をしてもらってるんだぞ。ついでに言っておくと、このこん棒は、花の集まりだから? そう、花序だったな。このように肉厚のこん棒状の表面に花がびっしりと並んでいる花序を、「肉穂花序(にくすいかじょ)」と呼んでるんだ。

 マムシグサ
 スパティフィルム
「仏炎苞」を観賞の対象としている植物は、このほかにもマムシグサやウラシマソウなどのテンナンショウの仲間やスパティフィルムなどの観葉植物などがあるんだ。そして、ついでに言っておくと、みんなの大好きなコンニャクの花もそうなんだよ。
 コンニャク

ブラッシカ・ラバ

タイトルのカタカナを見てピンと来る人は相当植物に詳しい人だけど、みんなはピンと来たかな?
ブラッシカ・ラパとは、Brassica rapa という横文字をカタカナ読みしたものだけど、これはある植物の学名(すなわちラテン語)なんだよ。さて、ある植物とは何だと思う? といわれても分からないよね。では、正解は・・・・・これがなかなか一口では言えない植物なんだ。
実は、このブラッシカ・ラパ Brassica rapa という名前は、西アジアからヨーロッパに自生していたアブラナの仲間の野草に付けられたもので、大麦畑の雑草としてはびこっていたものなんだ。それが農耕文化とともに東方に移動して、漢の時代の中国に渡ると栽培植物として利用されはじめ、その後、ちょう円半島や日本などの東アジアで盛んに品種改良されて、現在に至っているのさ。日本では、弥生時代にはもう既に青菜として利用されていたみたいなんだぞ。
えっ、ところでその植物は何かって? あっ、ごめん、ごめん。肝心の植物を教えるのを忘れていたね。現在の日本には、アブラナをはじめ、菜の花や菜種と呼ばれるものや、白菜、野沢菜、水菜、小松菜、高菜、青梗菜などの葉物野菜、さらには蕪の仲間まで、全てブラッシカ・ラパを改良して作られたものなんだ。ね、なかなか一口では言えないだろう?
 アブラナの花
 白菜
 小松菜
 水菜
 青梗菜
 蕪
 日の菜
花を愛でる菜の花から、油を絞る油菜(菜種)、葉っぱを食べる青菜類、さらには根っこを食べる蕪の仲間まで、アジア人はヨーッロパ人が見向きもしなかった畑の雑草を主要野菜の一大グループに仕立て上げたんだから大したもんだろう?みんながいろんな種類の豊富な野菜を毎日食べられるのも、先人達のお陰なんだから、たまには、古代の先人達に思いを馳せて、よ~く味わって食べてみたら如何かな。
 菜の花畑
因みに、現在の菜種油は、同じブラッシカ属の別種である、セイヨウアブラナ Brassica napus から採油していて、さらに、早春にあちこちで見られる菜の花畑も、セイヨウアブラナに置き換わっているらしいぞ。