白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

第13話 春菊

(操さん)
「トントン!本格的な寒さとともに、春菊が柔らかくおいしくなってきましたね。私たちが手近にありすぎてそのありがたみが分からないのが、土の上からすぐ葉っぱが始まる菊菜。菊菜は砂が絡みやすく雨にあたると腐りやすい。だけど香りの良さと柔らかさは格別!春菊のこと色々教えてくださいな。」

(フルーリ)
師走に入り、今年も残り少なくなってきて、いよいよ本格的な冬がやってきたね。吾輩は寒いのは好きじゃないけど、大好きな鍋料理が食べられるので、寒い冬も良しとしなきゃな。さて、鍋料理に欠かせない野菜といえば、白菜、大根に葱などが思い浮かぶだろうけど、忘れちゃいけないのが春菊だな。菊の仲間特有の香りを持っているのが特徴の葉物野菜だから、好き嫌いが分かれるだろうけどな。吾輩の子供のころはこの香りが嫌で嫌で、葱とともに嫌いな野菜の双璧だったね。みんなはどうだい? でも、関西生まれの吾輩の子供のころは、「きくな(菊菜)」って呼んでいたよな。今でも、関西では、「春菊」というより「きくな」って呼ぶことの方が多いと思うけどな。

さて、実は春菊を野菜として食べているのは、世界広しといえども中国や日本などの東アジアだけなんだぞ。でも、この春菊のふるさとは、東アジアではなくてヨーロッパの地中海沿岸地域なんだ。ヨーロッパでは古くから栽培されていたんだけど、あくまでも花を観賞するためで、あの菊独特の香りを持つ茎葉を食べようとは思わなかったんだろうね。それが宋の時代に中国に入ったころから、食用として利用されるようになったみたいなんだ。 原産地周辺では、食べられていないのに、遠く離れた極東地域で食べられているんだから、文化の違いって面白いね。しかも、日本では、茎葉だけでなく、食用菊として花弁も食べるんだからねぇ!

 シュンギクの野生の状態(イスラエル)

ところで、みんなは春菊の花を見たことがあるかい? そんなの知らないって? 実際に春菊を栽培した経験でもないと、その花を見る機会はまずないからねぇ。春菊の栽培は簡単だから、みんなも一度栽培してみるといいよ。秋の9~10月頃に種を播くと、11月~年末にかけて収穫できるぞ。収穫時に株を堀り上げないで、茎葉だけ切り取って使えば、また株元から茎が伸びてきて、春にはきれいな黄金色の花を咲かせるよ。冬の間は野菜として利用して、春になると花を楽しめるんだから二度おいしいぞ!
 春菊の花

シュンギクは、長い間キク属の一員として分類されていたんだけど、近年の遺伝情報による分類法によって別の属に位置づけられちゃったね。でも、キク属のChrysanthemum(クリサンテムム)という学名は、ラテン語で「黄金の花」という意味で、もともとヨーロッパで広く栽培されていたシュンギクに対してつけられた名前なんだ。みんなも、菊といえば黄色い花をイメージするんじゃないかな? 日本では、菊といえば秋の花っていうイメージがあるけど、シュンギクは春に花を咲かせる菊だから「春菊」って名づけられたんだな。

古くに中国から日本に導入された春菊だけど、長い間全国各地で栽培される間に、その地域独特の特徴のある系統や品種が生まれたんだな。今では、葉っぱの切れ込み方で、大きく分類されているんだけど、「大葉種」といって、葉の切れ込みが少なくて大きくて肉厚で柔らかく、香りも弱くて味も癖がないもので、主に、四国や九州で栽培されているんだ。
 大葉種
「中葉種」は、最も多く栽培されている系統で、香りが強く、葉の切れ込みは「大葉種」と「中葉種」との中間的で、茎が伸びて背が高くなるものと、根元から株立ち状になるものとがあるんだ。
 中葉種
そして「小葉種」は、葉が小型で切れ込みが深く、葉肉が薄くて収量が少ないために、現在ではあまり栽培されていないんだ。
 小葉種
また、特に奈良県北部の農家が受け継いで来た品種で、奈良県で選抜されて全国に広まった「大和きくな」という、「中葉種」と「大葉種」の中間的な品種もあるんだ。
 大和きくな(出典:奈良県HP)

春菊は、鍋料理にはなくてはならない野菜だけど、お浸しや胡麻和え、天ぷらにしてもおいしいよねぇ。また最近では、サラダとして生で食べることも多くなっているようだね。
さあ、操ちゃんはこの春菊をどんな料理に仕上げてくれるのか、楽しみだなぁ。

 

(操さん)
「へぇ~、お花畑も素敵!春菊は炊いても、湯がいて和え物にしても、あ、すき焼きにも欠かせませんよね。さっと炒めて、牛肉の付け合せにもよく使います。お肉の旨みを吸った春菊は最高においしい!やっぱり見るより食べたい春菊です。」
「牛肉のさっと焼き春菊のソテー添え」のレシピはこちら>

🌸【予告】2019年1月、ムッシュ・フルーリの新連載がスタート🌸
「ムッシュ・フルーリの花探検 in フラワーセンター」
吾輩、ムッシュ・フルーリは、実は、何を隠そう兵庫県立フラワーセンターという植物園の園長なんだ!
次回からは、我がフラワセンターが誇る4,500種類にも及ぶ膨大な植物コレクションの中から、とっておきの一品を紹介していくぞ! 栽培が難しくて国内では滅多に見ることのできない花、形が奇妙で花らしくない花、普段何気なく目にしているけど、実はこんな変わった性質がある花、そして世界中でフラワーセンターでしか見ることのできない植物などなど、次々と興味深い花たちを繰り出すから、楽しみにな!

第12話 りんご

 (操さん)
「トントン!秋の深まりとともに、さまざまなりんごが店先に並んでいます。猛暑を乗り越え、今年もおいしいりんごが食べられる幸せに感謝ですね。身近で何気ない存在だけど、ちょっとくたびれた時、一口食べるとなんだか元気がでるんです。大好きなりんごの話を聞かせてくださーい。」

 

  (ムッシュ・フルーリ)
秋も随分深まってきて、日本が誇るりんごの王様「ふじ」も随分出回るようになってきたね。さて、今回は操ちゃんのお願いで、りんごについて薀蓄を語ることにするよ。

みんなは、「ワリンゴ」っていう名前を聞いたことがあるかい? 「西洋リンゴ」に対して「和りんご」ってい言うことなんだけど、もともとのりんごの野生種は、コーカサス北部地方らしいんだ。それが平安時代には中国を経由して日本に入ってきてたんだな。江戸時代頃までは、主に仏事用として利用されていて、大きさも直径が3~4cmくらいとピンポン玉よりも小さかったんだな。この古くから日本で栽培されていたものを「和りんご」と呼ぶようになったのは、江戸時代の末期に西洋から今のリンゴに近いものが導入され、それを「西洋リンゴ」と呼ぶようになったからさ。日本で初めて西洋リンゴを栽培したのは、あの越前福井藩主だった松平春嶽で、文久2年(1862年)にアメリカ産のリンゴの苗を入手して、江戸の福井藩の下屋敷内で栽培していたらいいんだ。また、それよりちょっと前に、加賀藩の下屋敷で栽培されていたという記録もあるらしいんだ。

明治4年に、当時の政府がアメリカから75品種もの苗木を導入し、北海道に植栽したんだ。それらが中心となって、明治20年代頃から本格的に日本国中に西洋リンゴが普及したんだぞ。今では、それらの品種を基にして、日本独自の品種が育成され、国内で約200品種、世界中では1万品種ほど栽培されていると言われているんだぞ。

「 ふじ」(有袋栽培)
  「サンふじ」無袋栽培」
さて、こんなに多くの品種があるんだけど、世界で最も生産量の多い品種を知っているかな? それは、日本が世界に誇る「ふじ」っていう品種なんだ。みんなも良く知っているよな。 もちろん海外では「Fuji」って標記されるんだけどな。 同じ「ふじ」っていう品種を無袋栽培したものが「サンふじ」という名前で流通しているのは知っているかい? 無袋栽培って何かって? えっ、知らないの!? じゃあ、説明してあげようか。

りんごは、花が終わって果実がある程度大きくなったら、果実の色を鮮やかにして商品価値を上げるために、果実一つ一つに紙で作った袋を被せるのが一般的な栽培法なのさ。
  リンゴの花
でも、袋を被せないで、栽培したほうが果実に日光が多く当たり、見かけは悪いけど糖度やビタミンCが高くなるんだ。だから、外見より中身を重視した、袋掛けをしない栽培方法を無袋栽培といって、農家にとっても作業の負担が軽減されるので、近年増えているのさ。この無袋栽培で生産された「ふじ」を、袋掛けをしたものと区別するため、「サンふじ」という名前で出荷するようになったってことなんだ。だから、「サンふじ」の方が見かけは悪いけど、糖度が高く美味しいうえに、随分お安いので庶民の味方だな!みんなも一度食べ比べをしてみるといいよ!
 有袋栽培の状況
 無袋栽培の状況

ところで、りんごの産地といえば? そりゃあ青森とか長野だろうって? まあ、その通りなんだけど、実は、わが兵庫県にも小さいながらも産地があるのを知っているかな? りんごの栽培は寒いところっていうイメージがあるけど、西日本の温暖地でも結構育つもんなんだぞ。県内で最大の産地は、宍粟市波賀町の原地区で、約3.6haの面積の園地に10品種1,200本ものリンゴが植栽されているんだ。ここでは、8月下旬~11月下旬までりんご狩りもできるから、ぜひ訪れてみるといいよ。このほかに、神鍋高原や、神戸市のフルーツフラワーパークでもリンゴを栽培しているぞ。本場の青森や信州産のりんごもイイけど、たまには県内産のりんごも食べてみてほしいな。

さて、ついでにもう一つ薀蓄を述べさせてもらうかな。みんなが食べているりんごだけど、あれって本当の果実じゃないってことは知ってた? モモは本当の果実なんだけどね。えっ、どう言うことかって?
 りんごの果実
果実には、その構造上2種類に分けられていて、果実の大部分が成熟した果皮からなる場合を真果(しんか)、大部分が果皮以外からなる場合を偽果(ぎか)(仮果、副果とも言う)と呼んでるんだ。
別図を見てもらうとよくわかると思うんだけど、りんごは花が咲いているときの子房の部分が、果実になると、みんなが食べない芯の部分になるんだよ。みんなが食べているのは、花弁や顎弁、それに雌蕊や雄蕊がくっついている元の部分、すなわち花托というものが、肥大して大きくなったところなんだ。
それに対して、モモは花が咲いているときの子房の壁が肥大して大きくなったもの(これを果皮という)なので、果実そのものを食べていることになるんだぞ。どうだい。また一つ賢くなったね。
真果と偽果(仮果)出典:小学館「デジタル大辞泉」

さあ、今日は頭をよく使ったので、ここらで操ちゃんの料理が食べたくなったね。りんごを使った料理のメニューは、きっと県内産のりんごを使っていると思うぜ! ねえ、操ちゃん?

 (操さん)
「へぇ~、兵庫県でもたくさん作られてるんですね。りんごといえば、信州・長野や、青森、岩手のことばかり気になっていました。りんごはそのまま食べてもおいしいけど、焼きりんごやアップルパイなど焼き菓子にもよく使われます。お家にあるりんごとバナナで作るお菓子をご紹介します。さて、お茶でも入れましょうか。」
「バナナップルケーキ」のレシピはこちら>

 

第11話 生しいたけ

  (操さん)
「トントン!すっかり秋らしくなりました。秋はきのこの季節。そしてきのこは旨みの宝庫!松茸、しめじ、舞茸、えのきにマッシュルーム・・・いろんなきのこがあるけれど、一番身近なきのこと言えば、やっぱりしいたけかなぁ。今回はしいたけのこと、いろいろ教えてくださいな。」

 (ムッシュ・フルーリ)
シイタケは日本を代表する食用キノコで、英語でもShiitakeと呼ばれていて、世界に通用するんだ。国内の生産量はエノキタケやブナシメジに次いで3番目に甘んじてるんだけど、生産額はキノコ中最大なんだぞ。ということは、単価が高いってことだな! シイタケは,生食する「生しいたけ」だけでなく、乾燥させた「干ししいたけ」としての利用もすごく多い
んだ。シイタケは乾燥させることでうまみと香り成分が飛躍的に増えることが知られていて、うまみ成分として有名な昆布に含まれるグルタミン酸、鰹節に含まれるイノシン酸と並んで、干しシイタケに多く含まれるグアニル酸が、三大うまみ成分といわれているんだ。
  (野生のシイタケ)

さて、バーベキューといえば、お肉と野菜はもちろんのこと、生しいたけは絶対はずせないよね。えっ!? 生しいたけは好きじゃないって? そうなんだよな。シイタケはピーマン、ニンジンなどと同じように、風味や食感に癖があって、好みが分かれる食品の一つなんだってさ。そう、好き嫌いがはっきり分かれるってことさ。収穫したばかりの肉厚の生しいたけの笠を裏返して炭火で焼いて、バター一欠けに醤油をチョット垂らせば最高に旨いんだけどなぁ。

ところで、シイタケはマツタケと違って人工的に栽培できるキノコなんだけど、どの様にして栽培してるか知ってるかい? 今、市場に出回っているキノコ類のほとんどは、菌床栽培といって、オガクズなどの木質基材に米糠などの栄養源を混ぜた人口の培地で栽培されているんだ。シイタケはもちろん、エノキタケ、マイタケ、ブナシメジ、ナメコにエリンギなど、ほとんどのキノコがそうなんだけど、施設内で温度と湿度そして光を制御してやれば年中栽培できるから、工場生産と同じように、一定品質で一定量を計画的に生産できるので、みんなが求めやすい低価格で提供できるんだぞ。

(菌床栽培のしいたけ 出展:日本産・原木乾しいたけをすすめる会)

この菌床栽培に対して、もう一つの栽培方法の原木栽培っていうのがあるんだ。これは、天然の木を使って栽培する方法で、キノコの種類ごとに適した樹木を伐採し、その枯れた丸太に直接キノコの菌を植え付けるんだ。今では、ほとんどシイタケだけがこの栽培方法で生産されているんだけど、高度な技術に加え手間暇がかかるため、今では原木栽培をする生産者は随分と減ってきているんだ。でも、原木栽培のしいたけは、肉厚で味も香りも濃くて食感も全く別もんだぜ! もし、食べたことがないのなら、是非、一度は味わってみてほしいな。きっとその美味しさにびっくりするから!

(収穫間近の原木栽培のしいたけ 出展:日本産・原木乾しいたけをすすめる会)
今では、食品表示法に基づいて、「菌床栽培」もしくは「原木栽培」と表示しなければいけないようになっているから、買う時にしっかりと表示を確認するんだぞ。まぁ、原木栽培のシイタケは、チョットお高いから直ぐに判るけどね。

兵庫県内でも、原木栽培をしている生産者が僅かながらにいらっしゃって、特に、北摂地域には20数人の生産者が「北摂原木しいたけ振興協議会」を組織して、ほんとうのしいたけの味を守っているんだ。原木栽培に使うほだ木は、近隣の里山からクヌギやコナラなどを伐採してくるんだけど、このような作業が里山の環境を維持していることにもなっているんだぞ。

(原木栽培のしいたけ 出展:日本産・原木乾しいたけをすすめる会)

どちらにしても、この生しいたけはめっちゃ旨い。 こりゃぁ、生しいたけを使った操ちゃんの料理が楽しみだな!

(操さん)
「原木しいたけは確かに一度は味わっておきたいおいしさ。生産者の手間ひまを思います。シイタケって日本語も英語も同じ・・・とは知りませんでした。きっと世界中にその土地の特有のきのこがあるんだろうなぁ。なんだかきのこをたっぷり食べたくなってきました。」
「きのこたっぷりビーフストロガノフ」のレシピはこちら>